韓国人観光客激減で長崎「対馬市」に漂う絶望感 焼き肉屋と民宿経営者が実情を語る

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観光業から手を引く

 対馬市議会議員の大浦孝司氏がこう語る。

「韓国の徴用工の判決については、日本政府はいまだに納得していないでしょうし、韓国に対して行われた半導体材料の輸出管理の厳格化は、韓国企業に大きな影響を与え、それを根に持っている韓国人は少なくないと思います。けれども、歴史的に見ても、対馬と朝鮮半島は深い関係にあります。江戸時代には、対馬は幕府から朝鮮半島との貿易の独占権が与えられていました。今、日韓両政府の関係が過去最悪と言われていますが、対馬市と釜山市はお互いにすり寄ってもいいのではないか。今後は、釜山市長にまた韓国人観光客に来ていただけるよう働きかけていくつもりです」

 ちなみに、史実を紐解けば、3世紀頃の中国の文献『魏志倭人伝』には、対馬は朝鮮半島と交易していた状況が記されている。元々対馬の経済は、朝鮮との交易に頼っていたという。1592年の豊臣秀吉の朝鮮出兵では、対馬は存亡に関わるほど大きな打撃を受けたが、江戸時代になって、対馬は朝鮮との修好回復に努め、慶長12年(1607)に朝鮮との国交回復を果たす。その功が認められ、江戸幕府から対馬は朝鮮との貿易の独占権が認められたという。対馬は朝鮮へ銅、すず、丹木、胡椒などを輸出し、朝鮮から木綿、朝鮮人参、豹皮などを輸入した。対馬と朝鮮の交易の場所は現在の釜山にあり、「倭館」と呼ばれ、そこに貿易所や宿泊所などが設けられた。そこでは対馬の人が400~500人常駐していたという。

 大浦氏は、韓国人観光客向けに焼き肉店を営んでいるが、

「韓国人が好きな猪肉を出す焼き肉店ですからすごく人気があって、年間2万人の韓国人が来店していました。それがゼロになりました。国内客相手にしようとも考えましたが、福岡から対馬までの航空運賃は片道1万4000円もします。地方路線だからLCCは参入しません。これでは高すぎて国内客は対馬に来ません。韓国との関係を改善するしか生き残る道はありません」

 民宿「REN」を経営していた糸瀬政吉氏もこうぼやく。

「9月から韓国人観光客がゼロとなり、10月末で民宿を畳みました。今年9月5日に東横INNがオープンしました。長崎県が補正予算を組み、オープン当初から宿泊料を値引くキャンペーンを始めました。航空運賃を含めた宿泊料を9800円に設定したが、なぜ東横INNだけ応援するんだという抗議の声が地元から上がった。その結果、11月から来年2月まで他のホテルや民宿なども1人当たり3000円の割引キャンペーンを行うことになりました」

 しかし、これらの対応策は無駄になるという。

「韓国資本の飲食店や宿泊施設は、どんどん撤退して本国へ戻っているし、10社あったバス会社は、3、4社が撤退、残った会社は従業員1人か2人だけ残して、あとは全員解雇されています。県は、9月から企業1社あたりに金利1・3%で3000万円まで融資する制度を設けましたが、借りる人なんてほとんどいませんよ。韓国人観光客が戻ってくる保障がないからです。韓国人観光客が戻らなかったら、借金だけが残るわけですからね。繁華街も寂れて、店もどんどん閉まっています」

 糸瀬氏は、今後はどうするのか。

「もう、観光業からは手を引きます。対馬は、ブリ、サバ、アナゴ、太刀魚、アジなど海産物が豊富で、築地にも出荷していました。海産物を加工販売できないかと現在、模索中です……」

 お気の毒というほかはない。

週刊新潮WEB取材班

2019年11月26日掲載

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