「年収1000万円」家庭が世間のイメージほど「裕福」ではない現実
現代社会を生きる女性が避けては通れない「婚活」「結婚」「妊活」「子育て」。これらのライフイベントに伴う様々な困難にぶつかりつつも、彼女たちは最終的には自分なりに編み出した「ライフハック」で壁を乗り越えていきます。読めば勇気が湧いてくるノンフィクション連載「女のライフハック」、待望の第10回です。
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この先、実家よりも広い家に住めることはないだろう
後に就職氷河期のドン底と呼ばれるようになった1999年の秋、大学4年生だったわたしは、卒業後の進路が決まらずに焦っていた。いくつもの会社にエントリーしたものの、面接に進むことすら叶わない。
どう足掻いても正攻法では無理だと諦めをつけたわたしは、バイト先で知り合った男性に紹介を頼み、なんとか小さな編集プロダクションに就職することに成功した。給料の手取りは17万円ほど。正社員採用と言われていたものの、残業代もボーナスも出ず、社会保険もなかった。いま思えばとんだブラック企業だったけれど、それでも希望する出版業に就けたことで、希望には満ちていた。
就職したタイミングで家を出て自活することになった。実家は都内にある4LDKの戸建てだ。十分にわたしが生活するスペースはあったが「実家にいたのでは、甘えたままでいつまで経っても自立が出来ない」という親の教育方針で家を出されたのだった。最初は自由を得た気持ちで嬉しかったけれど、経済的には厳しく、会社には毎日手作りのお弁当を持っていっていたし、終電を逃した時は、家まで歩いて帰った。
ある日、深夜のキッチンで、翌日の弁当用に炊いたご飯を一食分ずつラップに包みながら、ふと頭に浮かんだのは「わたしはこの先、東京で暮らし続ける限り、実家よりも広い家に住めることはないだろう」という思いだった。
きっとわたしは、この先、普通に働き続けても、バブル期に働き盛りだった親世代のような“中流”の生活をすることはできない。身の丈にあった生活が出来ているのだから、いいではないか。自分の生活を自分で支えられていることは胸を張るべきことだと思う一方で、なんとなく行き詰まった思いも拭えなかった。
この連載で、結婚相談所の代表を務めていた女性を取材した際、「婚活を始めたばかりの女性は、紹介相手の男性の条件として“年収1000万”を希望する」という話を聞いた。世間一般からすると、それは高望みといえる条件ゆえに、なかなか条件の合う男性が見つからずに、お見合いまで辿り着けないという。
2018年9月公表の国税庁の民間給与実態統計調査によると、年収が1000万円を超えている男性の割合は、労働人口のたった6.9%。それなのに“年収1000万”を譲れない条件にしてしまっては、婚活が難しくなることは容易に理解が出来る。その一方で、最後の逆転チャンスとして、そこに縋ろうとする女性の気持ちもわかるし、自らの稼ぎを当てにしようとしている女性を、「ATMになるつもりはない」と、男性たちが敬遠するのもまた、仕方ないことだ。
そういった男女それぞれの思惑はさておいて、そもそも「夫の年収が1000万でも、さして裕福ではない」という声も度々耳にする。少し前のことになるが、ネット上の掲示板「ガールズちゃんねる」に「世帯年収900万円~1000万円で語りたい」というトピックが立ち、盛り上がりを見せていた。その中で年収1000万円世帯は、「一番損するゾーン」「税金で損する層」という発言が目立っていたのが印象的だ。
“損”というワードは、税金を払っているわりに恩恵を受けていないというところから来ているようだが、実際に年収が1000万の夫を持つ妻たちは、自らの生活をどう考えているのだろうか……しかし、話を聞こうと考えても、懐事情のことは知人に尋ねにくい。そこでSNSを利用して、該当する女性を募集することにした。すると数名の方が名乗り出てくれたので、アンケートに答えていただくことにした。まずは、その回答の一部を紹介したい。
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