大学入試改革、何故すべての道は「ベネッセ」に通じる? 受験産業が入試に関わる危険性
受験産業が入試に関わる
ところで、くだんの記述式問題の導入に当たり、ベネッセ関係者は、かなり強引な発言を重ねていた。
中教審会長であった安西祐一郎氏は今年4月、「正答率が低いのであれば、それは問題が不適切だからではなく教育改革が進んでいないからだ」「授業を変えることを目指すべきだ」などと言っていた。欠陥だらけの入試のために教育を変えろという暴言である。
また、下村文科相の下で文科省参与に就き、15年から18年まで4期にわたって文科相補佐官を務めた鈴木寛氏は16年2月、記述式問題の採点について「人工知能研究にしっかり投資して、日本語処理能力を飛躍的に向上させれば、採点の手間も劇的に改善するでしょう」と述べていた。
ともに是が非でも記述式問題にしがみつこうという発言だが、安西氏は今年3月まで、GTECを手がける進学基準研究機構の評議員で、鈴木氏は現在も、ベネッセグループの福武財団の理事なのである。
英語民間試験導入に強く反対していた全国高等学校長協会の会長である、都立西高校の萩原聡校長は、
「先日、記述式問題の採点をベネッセが落札しましたが、1社しかできないような寡占的な状況はどうなのか、という思いはあります。受験産業としてやってきたベネッセが、最近は入試そのものに深く関わるようになっています。模試や教材から入試の実施にいたるまですべてがベネッセ、という状況はどうなのか、と思っています」
と疑義を呈する。続けておおた氏も言う。
「ベネッセはいまも全国の高校に営業しています。入試改革がこれだけ混乱しているなか、高校は、最もたしかな情報を握っているであろうベネッセの営業マンの言うことを聞かないわけにはいきません。教員の方々は“あらゆることがベネッセ漬けにされ、実質、ベネッセ一択だ”と悔しがっています。ベネッセが大学入試を請け負うのであれば、高校の教育現場からは手を引くべきでしょう。高校の学習と大学入試の双方に手を出して進むことは、企業倫理として許されるものではないと思います」
しかし、改革の方向が噴飯ものでも、すべてがベネッセに通じていても、
「ガバナンスの名の下に文科省の統制を受けているので、各大学は逆らえません。文科省は教育改善を促すためだと言って、各大学をキャリア教育やアクティブラーニング、シラバスの作り方などを通して採点し、それによって助成金の額を決めている。文科省のご機嫌を伺うしかないのです」
と某大学教授。文句を言えない大学を尻目に、ベネッセが入試改革を請け負っているのである。ちなみに、先に挙げた進学基準研究機構には、旧文部省と文科省から2人が天下っていることがわかっている。
今後の日本のあり方にも直結する入試改革を、なぜベネッセが一手に担うことができているのか。ベネッセホールディングスの安達保社長を直撃したが、どんな質問も一切無視し、記者と目も合わせずに自宅に入ってしまった。
とまれ、ゆりかごから墓場までではないにせよ、しまじろうから大学入試まで、日本の教育がベネッセ漬けになるか否か。いまわれわれは、その分水嶺にいる。
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