小川賢太郎(国民生活産業・消費者団体連合会会長) 【佐藤優の頂上対決/我々はどう生き残るか】
世界最大の株式会社にする
小川 ビデオにルワンダの小学生の女の子が感謝するシーンがあったでしょう。何に感謝しているかというと、水を引いてくれたことじゃなくて、あなたたちと私のお父さんが一緒に汗をかいて水を引き、コーヒー豆を作ってくれたことに感謝しているんです。
佐藤 同じ立場で一緒に作ったことが重要だった。
小川 ただお金を出すとか、ただ水道を引くのではなく、一緒に汗をかいた。このやり方、考え方が、ヨーロッパ帝国主義的な世界支配を打ち破る基盤になると思う。
佐藤 なるほど。それを世界各地で展開していく。
小川 ゼンショーのフェアトレードは東ティモールから始まって今は世界18カ国で行っています。
佐藤 コーヒーが一番進んでいますね。だからフェアトレードを強調するコーヒー店が増えている。
小川 コーヒー豆の適地は、緯度が南北とも23度以内で、標高が1500メートルくらいの場所です。そこが世界の最貧困地帯とも重なるわけですよ。必然的にコーヒー、紅茶、カカオといった、そうした地帯に向いている作物がフェアトレードの商品として出てくる。
佐藤 イギリスでは、かつてカカオ、コーヒー、紅茶と流行して、それぞれチョコレートハウス、コーヒーハウス、そしてティーハウスが誕生しました。そこは社交場となり、世論形成の場として機能した。それが民主主義を育んだのは、歴史の皮肉ですが、でも今、それがフェアトレードで再び脚光を浴びるのは面白い巡り合わせです。
小川 ゼンショーは、世界から飢餓と貧困をなくすことをミッションに創業した会社です。世界の飢餓人口は8億2100万人とされていますが、食料の絶対量が足りないわけではない。世界人口77億人を十分に養えるだけの量はある。
佐藤 ただし先進国に集中している。
小川 こうした偏在はヨーロッパの帝国主義に端を発しているわけです。これを株式会社として変えていく。日本で牛丼を提供するだけじゃなく、地の果て海の果つるところまで、どこにいても安全な水、安全な食品を食べられるようにしたい。そのためには、原材料の調達から製造、加工、物流、販売まで一貫した仕組みづくりをしていかなければならない。これには技術がいるし、膨大な人材、資金力を含めた企業力が必要です。ゼンショーにはそうした理念に共鳴した人に入ってもらっている。
佐藤 なるほど。
小川 今ゼンショーグループは、売上高が6千億円あまりで、年間7億食くらいを提供しています。世界人口は日本の約60倍だから、まずは400億食以上を世界で提供したい。それでも世界中の人が3食ずつ食べたら2日分でしかないですよ。だからまだまだ企業規模が足りない。
佐藤 今後もさらに拡大させていくのですか。
小川 世界を見渡すと、株式会社は今のところ売上高60兆円ぐらいが上限です。象が5トンを超えられないのと同じで、規模の限界がある。それは基本構造の限界ですよ。だからその基本構造を変える。今はAIやIoTなどの第4次産業革命が起きて、それが技術的に可能になってきた。だからそのうちゼンショーは世界最大の株式会社になりますよ。
佐藤 小川さんの本質はやっぱり革命家ですね。目指すところは株式会社による革命です。
小川 拡大すると独占企業的になるから、政商にはならない、というのが私たちの戒めですね。
佐藤 ここに至るまでには、全共闘時代に対する誠実な総括があったんじゃないですか。
小川 総括という感じじゃないけどね。一日一日最大限前に進むということで、それは過去にやったことを踏まえてしかできない。もっともそれは総括でなく「科学的反省」と呼んでいますけどね。
佐藤 全共闘時代の高揚が不完全燃焼の形で終わって、多くの人は普通の企業でそれなりに出世して定年を迎え、今はしょぼくれてしまっている。その中でいまも一貫した理念を持ち、そこに資本家的な発想と生産という視点を加えて、世の中を変えようとしている。やはり小川さん、伝説を作っていますよ。
小川 旧民主党の幹部たちと会うと、もうイデオロギーの時代は終わった、みたいな認識なんだよね。違うんだよ。今こそ必要なのに。
佐藤 イデオロギーの時代が終わったというのは勘違いです。例えばここに1万円札がある。これを作るのに22〜23円しかかからないけど、1万円のものが買える。これだってイデオロギーですから。まあでもイデオロギーなんていうと今はびっくりする人もいる。別の言葉が必要かもしれませんけどね。
小川 理念でいいですよ、理念。ただ何をやるにしても世界を変えようと思ったら、その理念が必要ですよ。
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