住民票の旧姓併記スタート、女性ライターが旧姓で銀行口座を開設できるか試してみた
銀行は基本的に「お断り」の姿勢。粘ると……
旧姓での口座開設は、大手銀行のひとつに依頼した。
入口付近にいる総合案内の男性に「口座を作りに来た」と伝えると、申込書を手渡され、本人確認書類は何を持ってきたかと聞かれた。「運転免許証と旧姓が併記された住民票です」と答えると、「旧姓での口座は作れませんよ」と門前払いされそうになった。窓口の順番を待つための番号札すら、引かせてもらえないのだ。
結局「本人確認書類は免許証がありますから」と旧姓名義のことは伏せて押し切り、窓口までは行けることになったが、この時点で、旧姓名義で口座を作るハードルの高さを感じた。
窓口に案内されてからも、案の定、ひと悶着あった。
「旧姓名義で口座を作りたい」旨を伝えると、返って来たのは「旧姓での口座は作れません。本人確認の際、姓の不一致が生じるためです。ご理解ください」という言葉。理由が添えられているが、総合受付の対応と変わらない。
そこで、区役所で受け取ったばかりの「旧姓が併記された住民票」を提示した。
「11月5日以降、住民票に旧姓が併記されることになり、それを本人確認書類として使えると総務省のホームページに書いてあったのですが、この住民票を免許証と共に提示することで、本人確認できるから問題ないのではないでしょうか」と伝えると、窓口の行員は「調べてきます」と一度窓口を離れた。
しばらくして戻ってきた行員の答えは「やはり、旧姓での口座をお作りになることはできません」と言うもの。この対応はすべての窓口共通だという。
併記がスタートしたのが11月5日。銀行へ行ったのが11月12日だったため、制度の趣旨が周知されていないだけではないかと思い、念のため、再度事情を説明した。
「総務省のホームページには働く女性の不便を解消するために制度を改正したと書いてありました。その筆頭に挙げられていたのが、旧姓での銀行口座開設です。私は個人事業主ですが、仕事相手によっては、請求書の名義と銀行口座の名義が一致しないと振り込んでくれないところもあり、不便を感じています。その場合は、旧姓で仕事をしているにもかかわらず、結婚後の姓で請求書を作ることになります。このような不利益を解消したいのですが、何とか旧姓での口座を作らせてもらえませんか」
このようにお願いすると、窓口の行員は「役席に相談してみます」と再度、奥へ消えて行き、しばらくして戻ってきたときには、「通称名関係届を提出すれば、旧姓が使用できるようにいたします」と対応を変えた。はじめは「できません」としか言わなかったが、旧姓を通称として使用している場合、その名義で口座を作ることを認める特例があるそうだ。
政府は2017年7月、全国銀行協会に対し「可能な限り円滑に」旧姓での口座開設などが行えるよう協力を求めている。そして、今回の旧姓併記制度の施行は、総務省ホームページに旧姓併記制度のメリットとして「銀行口座を作る際、旧姓の証明に」などとイラスト付きで大きく書かれていることを踏まえると、より強く協力を求める意思が含まれていると思われる。しかし、実際には、「特例」として「役席が認めなければ」、必要書面すら出てこないのが現実だ。
ただし、「旧姓併記の住民票」にはある一定の効果があった。まず、住民票やマイナンバーカードが、旧姓の「公的な証明」となることだ。
同じ行員に、旧姓併記の住民票がない場合、社員証や名刺などで旧姓の証明を代用できるのかと聞いてみたところ、こうした「私人が出した証明」では不可能だという答えだった。戸籍でも旧姓の公的な証明になるが、住民票の方が手軽なので、旧姓の証明が容易になったと評価できる。
また、この旧姓を併記した住民票と免許証以外に、「旧姓を通称名として仕事で使用していること」の証明は求められなかった。
数年前に別のメガバンクで同様のやりとりをした際は、「旧姓を通称名として仕事で使用していること」の証明として、名刺や署名記事を複数枚提出するよう求められた。その上で口座開設を認めるかどうかを稟議にかけて、その稟議を通ったら口座を作れる可能性があると言われ、難易度の高さに旧姓名義での口座維持を断念した。
ところが今回は、「通称名関係届」の提出を提案された後のやりとりは非常にスムーズで、手続きに要した時間は、交渉も含めて1時間強。「旧姓を仕事で使用している」などの合理的な理由が必要とはいえ、証明までは求められない点で、より旧姓での口座使用が容易になったと思われる。総務省が旧姓使用を制度として後押ししているというのもプラスに働いたのかもしれない。
以上が、今回の取材結果だ。総務省は銀行口座や携帯電話を旧姓で利用するシーンなどを想定しているが、旧姓でのサービス利用は各社の対応次第となっているため、すべての銀行で旧姓での口座が作れるとは限らない。
なお、11月5日の施行を受けて、旧姓での携帯電話の契約を認めるリリースを出した企業もある。HIS Mobile株式会社は、「HISモバイルにおける携帯契約受付の条件に関して旧姓の規定はございませんでしたが、制度だけでなく、事業者としても本人確認制度を改訂することで、活躍する女性をはじめ、旧姓利用促進の一助になれたらと考えております」と積極的に対応することを明確に宣言している。
このように旧姓利用を積極的に後押ししてくれる企業が増えれば、姓を変更した側の不利益は少しずつ減っていくだろう。
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