ベネズエラに惨敗の森保ジャパン 経験豊富な“海外組3人”が抜けるとこうなる……
吉田麻也、長友佑都、酒井宏樹が不在
キリンチャレンジ杯のベネズエラ戦が11月20日に大阪・パナソニックスタジアム吹田で行われ、日本は前半だけで4点を奪われ、1-4の大敗を喫した。海外組も加わった代表チームは、このベネズエラ戦が最後となり、12月10日からは国内組を中心としたメンバーで、釜山で開催されるE-1選手権に臨む。
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これほどノートを取るのに忙しい前半は久々だった。原稿を書く価値がある試合かどうかは別にして、書かなければならないことの多い試合でもあった。
それだけベネズエラの攻撃は鮮やかで、面白いようにサイドを崩し、次々にゴールを重ねて前半で試合を決めた。それに対して日本は、イージーミスの連発で自ら試合を壊してしまった。
まずは中島翔哉(25)[FCボルト]である。柴崎岳(27)[デポルティーボ・ラ・コルーニャ]からのパスを受けて前を向いたはいいが、誰もいないスペースへバックパス。もしかしたら柴崎がフォローしていたと思っていたかもしれないが、柴崎は中島を左から追い越そうとしていた。
ルーズボールを拾ったサロモン・ロンドン(30)[大連一方]は日本ゴールに襲いかかる。失点しないのが不思議なくらいのピンチだった。
次は左SBの佐々木翔(30)[サンフレッチェ広島]が前半6分に至近距離でのパスミス。前半15分には右SBの室屋成(25)[FC東京]がヨコパスを相手に渡してしまう。
ミスは伝播するのか、前半27分には橋本拳人(26)[FC東京]が鈴木武蔵(25)[北海道コンサドーレ札幌]に出したタテパスは、相手に完全に読まれてカットされる。そして前半38分、柴崎から橋本へのパスがズレたことでカウンターを食らい、致命的な4点目を決められた。
これが「グチャグチャだった」(永井謙佑(30)[FC東京])というキルギスでのピッチなら同情の余地もある。しかし戦い慣れた、綺麗な芝の日本のピッチだ。なぜこれほどまでにミスが出たのか理解に苦しむし、原因は技術的なものよりもメンタルにあるとしか考えられない。
W杯アジア2次予選、アウェーのタジキスタン戦とキルギス戦は、内容的には見るべきものはなかったものの、無失点で勝点3という結果を残した。理想とする試合ができなくても、「しょっぱい試合」でも結果を残したことで森保ジャパンを評価してきた。
しかし1-4という結果と試合内容からは、やはりキルギス戦後に離脱した海外組の吉田麻也(31)[サウサンプトンFC]、長友佑都(33)[ガラタサライSK]、酒井宏樹(29)[オリンピック・マルセイユ]ら経験豊富な選手の存在感が際立つばかりだ。
ベネズエラ戦の見どころとして、個人的は2つのテーマがあった。まず1つは両サイドバックの後継者探し。そしてもう1つは大迫勇也(29)[ヴェルダー・ブレーメン]の控えとして永井謙佑がいるものの、彼ももう30歳なので、2022年のカタールW杯を考えればさらなるバックアッパーが必要だ。
CB吉田麻也の後継者は、現在負傷中の冨安健洋(21)[ボローニャFC]がいるし、植田直通(25)[サークル・ブルッヘ]や今回出場した畠中槙之輔(24)[横浜F・マリノス]、三浦弦太(24)[ガンバ大阪]らに加えU-22日本代表にも候補はいる。
そこで室屋成と佐々木翔だが、前半は数的不利な状況から押し込まれることが多く、失点の糸口となってしまった。前半8分、室屋はテクニシャンのジェフェルソン・ソテルド(22)[サントスFC]に突破を許し、彼のクロスからロンドンに先制ゴールを奪われた。
30分には左サイドのワンツーに佐々木は裏を取られ、ダルウィン・マチス(26)[グラナダCF]のクロスからロンドンに2点目を許した。
ベネズエラの両翼、ソテルドとマチスは幾度となくサイドから侵入して日本ゴールに襲いかかった。ただ、室屋に関しては、後半は吹っ切れたのか効果的な攻撃参加で中島翔哉の決定機を演出したり、自らも決定的なシュートを放ったりして、“いつもの”室屋のプレーをしたのは数少ない好材料だ。
柴崎のキャプテンシーに疑問符
問題は左サイドで、安西幸輝(24)は、ポルティモネンセSCが招集を拒否したため佐々木を起用したが、ダルウィン・マチスとのマッチアップではスペースを与えすぎて自由にプレーさせていた。彼もすでに30歳、3年後を考えるとアンダー世代も含めてバックアッパー探しは急務と言える。
前線の鈴木武蔵と浅野拓磨(25)[パルチザン・ベオグラード]に関しては、正直、期待外れと言わざるを得ない。勝負ごとは、勝つ時もあれば負ける時もある。ゆえに、ベネズエラ戦の大敗にも悲観していない。それと同じように、ストライカーだからといって、いつもゴールできるとは限らない。期待外れだったのは、前線からのプレスに連動性がまるでなかったからだ。
それは後半20分、浅野に替わって永井謙佑が出場すると、いつものように前線からプレスをかけることで、チーム全体が高い位置取りからベネズエラを押し込め、試合の主導権を握ったことで証明されている。永井自身も前半は「全体的にちょっと低かったですね」と語り、プレスをかけることで「もうちょっとプッシュアップ(押し上げ)して、後ろがチャレンジできるようになりました」と分析していた。
永井に限らず大迫勇也も、自身がボールを失えば自陣のゴールライン近くまで戻って守備に参加する。ゴールの近くでなければ反則で止める時すらある。そうした献身性が2人になかったのは残念だった。
森保一監督(51)は試合前日の会見で「試合の中で相手をどう上回っていくか。攻撃で上回っているとき、押し込まれたときにいろいろな対応をしたい。選手たちが考えてやっていること、ベンチからの指示を考えながらやっていきたい。時間がないなかで、対応力を工夫しながらやっていきたい」と話していた。
しかしながらベネズエラ戦の前半を見る限り、選手もベンチも効果的な対応をすることはできず、次々と失点を重ねた。この試合に、もしもベテランの吉田麻也がいれば、DFラインをコントロールしてオフサイドを狙ったり、前線の選手にプレスを強めるよう要求したり、状況によっては無理をしてDFラインからビルドアップするのではなく、前線にロングボールを蹴ったりするような対応力を見せられたかもしれない。
そういう意味で、キャプテンを務めた柴崎岳は、攻撃陣を牽引できても、チームメイトを叱咤激励して試合をコントロールするタイプの選手ではないのかもしれない。ただ、理想を言えば、試合の状況に応じて対応するのは1人の選手の判断ではなく、ピッチにいる全員が共有してこそ“大人のチーム”のはず。森保監督が目指しているのも、こうした対応力を身につけたチームだろう。
課題だらけの前半だったが、後半を迎え植田直通に代わり三浦弦太、鈴木に代わり古橋亨梧(24)[ヴィッセル神戸]を起用し、浅野拓磨の1トップ、右MFに古橋、左MFに原口元気(28)[ハノーファー96]をコンバートし、中島翔哉をトップ下の戦い慣れた4-2-3-1にすると日本は攻守とも落ち着きを見せた。
特に顕著だったのは守備での安定感だ。前半は左サイドの中島が中央や右サイドまで流れて攻撃に参加していた。マイボールなら、サイドバックが高い位置取りをしたり、ボランチがペナルティエリアまで攻め上がったりするのは普通だ。固定されたポジションでは、攻撃に変化がないため相手DF陣を崩すのは難しい。
しかし相手ボールとなった守備時には、それぞれが守備をスタートするポジションがある。ところが中島は、サイドにいるときは守備をしていたものの、中央にいてボールをロストすると、彼が戻る前にベネズエラは右サイドのダルウィン・マチス経由で日本ゴールに襲いかかった。日本守備陣の手薄なところを突いた、ベネズエラの対応力でもあった。
ところが4-2-3-1にしたことで、右サイドは古橋亨梧、左サイドは原口元気がしっかりと蓋をして、ベネズエラの侵入を阻止した。森保監督は「4(BK)でも3(BK)でも局面、局面で対応できるようにしたい。ミーティングで伝えたのはシステムではなく、局面でどうするかということ」とも話していた。まさに正論である。
残念ながら日本は、4-4-2と4-2-3-1と同じ4BKでも、4-4-2では局面、局面で対応力を発揮することはできなかった。
試合後、何人かの選手が「高い勉強代」と口にしたが、選手層を底上げするには今後も「高い勉強代」を払う必要があるだろう。幸いにも日本には、カタールW杯に向けて時間がたっぷりとある。問題は、来夏に迫った東京五輪に臨むU-22日本である。
本来なら来年1月にタイで開催されるU-23アジア選手権、五輪の出場チームを決める最終予選だが、これまではチームのピークをこの予選に合わせてきた。予選を突破しなければメダルなど砂上の楼閣だからだ。しかし17日のコロンビア戦を見る限り、チームの骨格すら決まっていない印象を受けた。
開催国のため出場は決まっているが、金メダルを目指すなら急ピッチでチーム作りを進めるべきだろう。いまさらではあるが、招集に強制力のない海外組は“オーバーエイジ枠”と割り切って(リオ五輪では南野拓実(24)[レッドブル・ザルツブルク]と久保裕也(25)[KAAヘント]。最終的に久保はチームが招集を拒否)、国内組を中心にしたチーム作りを進めるべきだったのではないだろうか。