田舎をバカにするつもりはないけれど(中川淳一郎)

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 参議院議員の河井案里氏が7月の参議院選挙でウグイス嬢に規定の倍のギャラを払った「運動員買収」疑惑を週刊文春に報じられ、それが元で夫の河井克行氏が法務大臣を辞任しました。

 この件をテレビが後追いしたのですが、いやぁ、案里氏の地元・広島市安佐南区の住民の発言があまりに面白過ぎました。声から高齢女性と思われます。彼女はこう言いました。

「あの人はね、カツカツカツとそこら辺を歩いているのよ」

 恐らく背筋をピンと伸ばし、スーツをバシッと着こなしイケてるキャリアウーマン然として自信たっぷりに歩いている、ということでしょう。そしてこう続けます。

「この辺はね、ヒールを履いている人なんていないから(目立つのよ)」

 ヒールを履いているだけで異端児扱いですよ! だったら金髪、刺青、外車所有、短パン、ピアス、腰パン(ズボンを通常より低い位置で穿くこと)、サングラスの人がいても同様に「この辺はね、ピアスをつけた男性なんていないからおったまげましたよ!」なんて言われてしまいそうです。東京にいると、ありとあらゆる類の人がいるのでこの女性のようなことは思いません。私の居住エリアは外国人も大勢住んでいるため、特にその傾向は強いです。

 最近、2013年の「山口連続殺人放火事件」を題材とした『つけびの村 噂が5人を殺したのか?』(高橋ユキ著・晶文社)という本を読んだのですが、山口県周南市の限界集落が舞台です。

 読んだ感想は「オレが知ってる日本とは違う……」というものです。東京在住の著者が現地を訪れるのですが、何しろ集落の「噂」がそこかしこで流布しており、よそ者の著者は徹底的に警戒される。同書のレビューを読んでみると「田舎者をバカにしてる」なんてことも書かれる。しかし、著者に確認すると「私も北九州市八幡西区のバスの終点のド田舎出身なんですけどね……」とのことです。だからバカにしているはずはないのですが、そうは捉えられない。

 奇遇ですが、私も母方の実家が北九州市八幡東区で、同じくバスの終点の田舎です。帰省時に散歩をすると、住人がカーテンを開けてそーっとこちらを見ていたり、わざわざ外に出てきて門扉の後ろから「不審者が来た……」的な態度を取られます。

 その後、井戸端会議では「無精髭で短パン・サンダルのだらしない男が歩いていた。お宅は泥棒の被害に遭ってない?」みたいな噂話の主人公になったかもしれません。

 また、東京と北陸の某県を拠点とする知り合いから聞いたのですが、彼は「よそ者」ということで町内会に入れず、ゴミ捨て場を使えないそうです。ゴミを捨てる時は大家さんの家まで車で運んでいると言っていました。

 こういうことを書くと「田舎をバカにしてる」とまたもや言われてしまうのですが、東京もネットでは散々バカにされていますよ。大雪が降って公共交通網が麻痺して帰宅難民が発生したら「トンキン脆弱ww」、新しくできたカフェに大行列ができたら「トンキン民度低っww」なんて書かれます。「トンキン」とは「東京」の蔑称です。お互いバカにされ合っていると感じます。

中川淳一郎(なかがわ・じゅんいちろう)
1973(昭和48)年東京都生まれ。ネットニュース編集者。博報堂で企業のPR業務に携わり、2001年に退社。雑誌のライター、「TVブロス」編集者等を経て現在に至る。著書に『ウェブはバカと暇人のもの』『ネットのバカ』『ウェブでメシを食うということ』等。

まんきつ
1975(昭和50)年埼玉県生まれ。日本大学藝術学部卒。ブログ「まんしゅうきつこのオリモノわんだーらんど」で注目を浴び、漫画家、イラストレーターとして活躍。著書に『アル中ワンダーランド』(扶桑社)『ハルモヤさん』(新潮社)など。

週刊新潮 2019年11月21日号掲載

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