「沢尻エリカ」逮捕は安倍官邸の陰謀だ! という説を真面目に唱える人たち

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 総理主催の「桜を見る会」に関連した疑惑が浮上する中、斬新な視点を提供している人たちも登場している。

 11月16日に伝えられた沢尻エリカの逮捕報道を受け、そこには陰謀があるのではないか、という視点である。

「まただよ。政府が問題を起こし、マスコミがネタにし始めると芸能人が逮捕される。これもう冗談じゃなく、次期逮捕予定者リストがあって、誰かがゴーサイン出してるでしょ。」

 16日、自身のツイッターでこう発信したのはラサール石井氏。要するに政府には「次期逮捕予定者リスト」があって、自由に逮捕者を出して、世間の目をくらませている、という指摘である。

 また、金子勝・慶応大学名誉教授も同様の見立てを同日ツイートしている。

「【困った時の麻薬逮捕】2016年1月に甘利明の現金授受問題で、2月に清原逮捕。2019年2月に沖縄県民投票で圧倒的多数の辺野古新基地反対で、ピエール瀧が逮捕。「桜を見る会」で窮地にあるアベ内閣。沢尻エリカが合成麻薬MDMAで緊急逮捕。これでワイドショー制圧?だったら、本当に愚かしい国です。」

 ラサール氏も金子氏も普段から安倍政権に批判的な立場で知られている。彼らには、「この件」と「あの件」は関係があるに違いない、という確信のような思いがあるのだろう。この「官邸陰謀説」に同調する人は有名無名を問わず存在する。

 もっとも、こうした見立ては、多くの人には「陰謀論」とうつっているようだ。そのため、「沢尻エリカ目くらまし説」は今のところマスメディアでは、まともに相手はされていない。

 なぜ彼らの説は陰謀論扱いされるのだろうか。フリージャーナリストの烏賀陽(うがや)弘道氏は、著書『フェイクニュースの見分け方』の中で、「厳密な定義は難しい」ものの「以下のような特徴がある」として、「陰謀論」「陰謀史観」の特徴を示している(以下、引用は同書より)。

フリーメーソン、宇宙人、ロスチャイルド家

・ある出来事(あるいは世界・国内社会全般)の背景には、何らかの「秘密の強い力・組織」が働いている、と考える。こうした力・組織の例としては、日本政府やアメリカ政府、米軍、中国、韓国、ユダヤ人(ユダヤ系金融資本、ユダヤ人国際機関なども含む)、ロスチャイルド家、フリーメーソン、ナチス、ロマノフ家、共産主義者・共産党(かつてはコミンテルン)、宇宙人、UFO、反日勢力などがある。

・こうした「強い力」を持つ者たちの狙いは、日本や世界を自分たちの思い通りに動かすことだ。

・その「強い力」を持つ勢力が、裏で社会や歴史を動かしている。

・この勢力や陰謀の存在は、秘密のまま決して明るみには出ない。

・こうした勢力や陰謀の存在を、新聞・テレビなど主流マスコミは一切伝えない。それは「強い力」を持つ勢力の圧力による。またはマスメディアそのものが彼らに支配されているからである。

・自分たちが利益を得た場合は陰謀論は登場しない。自分たちが何らかの「被害」を受けたと論者が考えるときのみ、その原因として陰謀の存在を主張する。

 ラサール・金子説は見事なまでに上の特徴にあてはまる。「強い力」=安倍首相で、その勢力が警察やメディアを思い通りに動かしている、というのが彼らの説の基本構造である。

 烏賀陽氏は、ある時期まではこうした特徴を持つ話を聞いても、とりあえずは耳を傾けていたという。何か重要な事実が含まれているかもしれない、と思ったからだ。しかし、その種の話をする人に「どういう事実が論拠としてありますか」と聞いても「ありません」「見つかりません」という。「なぜないのですか」と尋ねると「(巨大勢力が)隠蔽しています」「証拠をもみ消しました」などと言うばかり。

陰謀論には「ほんの少しの事実と大量の空想」がブレンドされている

「そうした経験を重ねるうちに、こうした陰謀論には『ほんの少しの事実に、大量の空想がブレンドされている』ことに気づいた。例えばP=『世界貿易センターが爆発炎上し崩壊した』『東北地方が大地震に襲われ、約2万人が死亡・行方不明になった』のような、ごく一部は事実である。

 しかしそれが『Q(例:米国政府)による陰謀』という推論の証拠は『陰謀だから』という理由で『存在しない』『発見されない』『公式には確認されない』ことにされてしまう。つまり結局、陰謀論は『Pは陰謀だ。しかし証拠は存在しない。なぜなら陰謀だからだ』という論理で出来上がっている。これは蛇が自分の尻尾を噛んでぐるぐる回っているようなトートロジー(同義反復)である」

 つまり「安倍首相が攻撃されている」(P1)と「沢尻エリカが逮捕された」(P2)はいずれも事実である。しかしながら「P2」は「P1」と関係があるという新説(Q)の根拠をラサール氏も石井氏も一切示していない。

 金子氏の言う「沖縄県民投票」と「ピエール瀧逮捕」に至っては前者が2月24日で後者が3月12日。3月のその時点で良くも悪くも全国的な関心が辺野古移設問題に集まっていたとは言い難い。

 この程度のことすら「関係がある」と勘繰られていては、日々、地道な捜査を続けている現場の捜査員もたまったものではないだろう。真面目に仕事をすると「政権の陰謀だ」とそしられるのだから、よほど世間に何の話題もない時期を選んで検挙しないといけなくなってしまう。

 しかしながら、彼らの中では「日本政府には闇の機能があり、警察もメディアも掌中に収めている。『誰か』が陰謀をめぐらせている」というストーリーが共有されているようだ。烏賀陽氏は著書の中で、上記のような特徴を持つ説に出会っても顧みる必要はなく、「陰謀論は耳を貸すだけ時間の無駄である」と総括している。

 なお、沢尻エリカ逮捕の案件については、元総理大臣である鳩山由紀夫氏も、陰謀の存在を匂わせている。

「沢尻エリカさんが麻薬で逮捕されたが、みなさんが指摘するように、政府がスキャンダルを犯したとき、それ以上に国民が関心を示すスキャンダルで政府のスキャンダルを覆い隠すのが目的である。私も桜を見る会を主催したが、前年より招待客を減らしている。安倍首相は私物化し過ぎているのは明白である」(11月18日)

 せっかくの元総理の爆弾発言なのだが、基本的には「陰謀論」ということで片付けられている模様だ。

デイリー新潮編集部

2019年11月21日掲載

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