同窓会不倫の相手は「結婚しなければ、いい男」、お互いの家族では満たせない「心の穴」を埋め合える関係

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思い出を共有できる彼

二村:ひとつ確かめておきたいんですが、舞衣さんはファザコン?

舞衣さん:そうだと思います。父には溺愛されたし、あとは祖父や伯父など、男性の親戚にも愛されていました。なので男性を怖いとか嫌いだとか、恨みに思ったことはないですね、むしろ大好き。

二村:でも、ここまで聞いた中で、舞衣さんは「結婚なんてしたくなかった」と言っていますよね。それはなぜ?

舞衣さん:父と母が、夫婦としてあまり幸せそうではなかったからですかね。父は真面目な人だったので浮気とかはなかったと思うんですが、母も真面目で、真面目な2人なだけに家の中が煮詰まっちゃうんです。いつも父に言い負かされて泣かされている母を見て、結婚って苦労が多いものなんだなと思ってました。それに、結婚して私を産まなければ、母はもっと自由に生きられたのでは、とも考えてしまうんです。母は、家庭に縛られて鬱屈しているところがありました。そんな母を私は反面教師にして仕事も頑張りましたし。子どものころ親子げんかしたときに「私はお母さんのような普通の主婦にはなりたくない」と反発して、母を泣かせたこともあります。

二村:彼は、舞衣さんのお母さんのことは知っているの?

舞衣さん:はい、昔付き合っていた時に家に呼んだりしていたので、その頃からよく知ってます。彼は今でも私の母の話をしてくれるんですよ、「舞衣のお母さんは素敵な人だったよね」と。母はもう他界したのですが、今そんなふうに母を褒めてくれる人は他にいないので、そこにも私はぐっときてしまって。彼と話していると、昔、母と彼と私の3人でご飯を食べてる時の風景とか、若かった頃の母の可愛らしい声とか、恥ずかしそうにしてる彼の態度とかを、ありありと思い出すんですよね。彼のおかげで私、母を嫌いじゃなくなったかもしれない。

二村:彼が“幼なじみ”のような関係だったことが舞衣さんには重要だったってことですね、結果的に。

舞衣さん:この頃は彼も、やっと父親との思い出話をポツポツ話してくれるようになりました。母子家庭で育ったのに、実はわりと頻繁に父親と会っていたことを初めて打ち明けてくれたんですよ。最近は事後に、ベッドに寝そべりながら延々と家族の思い出話をしたり……。親で満たされなかった心の穴を、お互いの何かで埋めようとしているんだと思います。私は彼自身というより「彼と自分の思い出」「家族の良い思い出」と寝ているのかも。

二村:その役割もやっぱり、旦那さんではないんだろうなあ。

舞衣さん:うちの場合は、夫婦だと無理ですね。夫婦って、相手だけでなく相手の家族を悪く言ってしまうこともあるじゃないですか、知りすぎてて、いやな目にもあってるから。けんかになるとお互い言葉がきつくなって、ついには夫が母のことまで言い出して、「舞衣のそういう性格、死んだお義母さんそっくりだよね」とか。またそれが当たってるから、私も母の悪いところを思い出して落ち込んじゃったりして。

二村:家族って、そうなっちゃうことがあるよね。なぜ人間って、とても大切な相手を、近くにいるからって軽んじたり、失礼なこと言っちゃったりするんだろう。まるで自分のようについ油断してしまう。一方で舞衣さんは、外にセックスする人ができて、いいセックスにありつくために彼を大切に扱っているわけですよね。

舞衣さん:家族も夫婦も、私はフィクションというか幻想だと思っています。どこかで演じないと回っていかない。親子だってそう。親という役を演じていないと子どもは納得しませんから……。家事は夫まかせなので、いわゆる普通の日本のお母さんとは違いますけど、息子たちとスキンシップは欠かしませんし、夫が叱ったらバランスをみて私が慰めます。

二村:いい両親じゃないですか。

舞衣さん:だから私が夫以外の男とセックスしてるなんてことは、息子たちには絶対に知られたくありません。でも、そもそも私がどんな欲望を持とうが、それを誰とどうかなえようがすべて私の自由じゃないか、というのも正直な気持ちなので。

二村:誰かには話していいけど、誰かには絶対に内緒にしなきゃいけない秘密っていうのがあるんですよ。家族の中では特に。

 ***

——親は懸命に自分の人生を生きることで、いい影響も悪い影響も子どもに与えてしまう。それは無意識のうちに起こることで、親自身にはどうしようもできないことだ。そうして空いた幼い頃の心の穴を、それぞれの家庭では埋められなかった欠落を、舞衣さんは不倫相手と埋め合うことで互いに救い、救われている。

 世の中は、親である人が配偶者以外とセックスしようとすると「子どもはどうするの」と言う。確かに、配偶者への憎しみを動機に不倫していたら、子どもは敏感だから絶対に気づくだろう。もちろん親によって子どもが不用意に傷つけられることは、ない方がいい。けれど僕は、親には親の人生があるように子どもには子どもの人生があり、ついてしまった傷から自力で回復していくことも子ども自身の人生の課題だと思う。

「子どもがいるから離婚も浮気もできない」と我慢してイライラしている親もいる。バレないように細心の注意を払いながら外で性欲を満たしてくることで家族の前ではニコニコできている親もいる。子どもにとってはどっちがいいのだろう。いや、そもそもこんなことは、当事者でもない他人が比べられることではないはずだ。

二村ヒトシ(にむら・ひとし)
1964年生まれ。慶應義塾大学中退。本業はAV監督。痴女やレズや女装子ジャンルで画期的な演出を多く創出。ソフトオンデマンド若手監督エロ指導顧問。著書に『すべてはモテるためである』『なぜあなたは「愛してくれない人」を好きになるのか』『あなたの恋がでてくる映画』、共著に『欲望会議』『日本人はもうセックスしなくなるのかもしれない』『オトコのカラダはキモチいい』ほか。

構成・文/山崎恵

2019年11月19日掲載

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