川野幸夫(株式会社ヤオコー代表取締役会長)【佐藤優の頂上対決/我々はどう生き残るか】
ふたつの財団
佐藤 川野さんの考えの根底には、いつも社会貢献がある。これが川野さんの行動を貫いている気がします。仕事への向き合い方もそうですが、陰徳と言いますか、小児医学研究と小児科医を育てる川野小児医学奨学財団を作られたり、進学や留学支援をする浦和高校同窓会奨学財団の設立でも中心的な役割を果たされている。
川野 小児医学奨学財団の設立については、個人的な体験が発端にあります。私は1982年に小学2年生の長男をウイルス性脳炎で亡くしました。当時、私は仕事のことしか頭になく、家庭生活が疎(おろそ)かになっていた。後に妻から「あの子はお父さんを求めていた」と聞かされて、愕然としたのを覚えています。そんな息子の霊を慰めるためにも、病気に倒れた子供たちを救う活動をすることが私の責務だと思いました。ちょうどヤオコーが株式を店頭公開した翌年の1989年に財団を設立しました。
佐藤 同窓会奨学財団の方は、同窓会長時代にまとめられたんですよね。
川野 私が同窓会長を務めさせていただいている時に、当時の校長先生から、米国ミシガン大学のサマーセミナーへ生徒を3人出したいから同窓会として応援してほしい、と頼まれたのがきっかけです。この時は同窓会で補正予算を組んで対応したのですが、一回きりでは意味がありません。恒常的に学生を海外に送り出し、グローバルな雰囲気の中で刺激を受けてもらえれば、浦高生が将来活躍する大きな素地になると思ったんです。そこで同窓会の皆さんに相談したところご賛同いただき、2013年に設立することができました。
佐藤 財団の基本財産をヤオコーの株式にするということで国税局とやりあったんですよね。
川野 はい。株式にして配当で運営していくのが一番いいですから。また将来、浦和高校を卒業して起業し、お金に余裕のある人が出てくるはずです。
佐藤 今は利息といっても、ほとんどつかない利率ですからね。
川野 少子高齢化が進む中、これから日本を活気ある国にしていくには、やはり若い人たちに頑張ってもらうのが一番です。浦高生のように、もともとポテンシャルのある人たちに、さまざまな方向で動機付けしてもらい、勉強して実力アップにつなげる、やがてはその人たちに世の中のリーダーとなって活躍してもらいたいと願っています。
佐藤 私もそう思います。
川野 サマーセミナーは10日間ほどですが、帰ってきた生徒さんたちの顔つきが変わっているんですよ。
佐藤 そこでアメリカやイギリスの高校生が本気で勉強していることに触れてくるだけでも、大きく変わるでしょうね。
川野 感受性が強い時にいろいろ刺激を受けることが大切ですよね。佐藤先生も高校1年生の夏休みに一人で、当時のソ連と東ヨーロッパ諸国に行かれていますよね。
佐藤 その時はさほど感じなかったのですが、その後の人生の、モノの見方、考え方に大きく影響しました。
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