川野幸夫(株式会社ヤオコー代表取締役会長)【佐藤優の頂上対決/我々はどう生き残るか】
埼玉県を中心に展開するローカルな食品スーパーチェーンは、なぜバブル崩壊後も快進撃を続けられたのか。各店舗に主体性を持たせることで、やる気を引き出し、人を成長させ、さらには楽しく働けるようにする――ヤオコー独自の「個店経営」が生まれるまで。
佐藤 この間も見せていただきましたが、ヤオコーは東京のスーパーとは一味違う。幅広い価格帯の食品が並んでいて、ワインなどは独自の品揃えだし、イートインコーナーがあるかと思うと、その隣には駄菓子のコーナーがあったりする。店の隅々まで創意工夫が凝らされていて、パートナーさんと呼ぶパートの方々も生き生きと働いています。
川野 ありがとうございます。
佐藤 埼玉県立浦和高校の大先輩でもある川野さんには、これまで何度かお話しする機会がありましたが、本日は改めて、ヤオコー躍進の秘密と、これからの展望についてお話しいただきたいと思います。
川野 分かりました。よろしくお願いします。
佐藤 川野さんは日本スーパーマーケット協会会長でもありますが、まず小売業にとって平成の30年間はどんな時代だったんでしょうか。
川野 よく比較に出されますが、今から30年前、中国のGDPは日本の九州と同じ規模だったんですね。それが今では、日本全体の2倍を超えて3倍にも至らんとしています。
佐藤 中国が13・4兆ドル、日本が4・9兆ドルくらいですね。
川野 この間、日本経済は停滞し、その中で国民は静かに生きているというか、活力が薄れてきたように思います。
佐藤 ここ数年でも日本の1人当たりのGDPは、2011年だと4万8千ドルでしたが、2018年は3万9千ドル。減っていますからね。
川野 小売業を見ますと、以前からデパートや百貨店は良くないのですが、いわゆる総合スーパーの衰退がはっきりしてきました。西のダイエー、東の西友と呼ばれるような代表的な総合スーパーが破綻したり、外資の傘下に入ったりするなどして、力を落としています。食品スーパーは比較的順調ではありますが、トータルとしての売り上げは、それほど伸びたわけではありません。
佐藤 食品スーパーと総合スーパーはどこで線引きするんですか。
川野 食品スーパーで販売されている商品は、一部日用雑貨もありますが、主に食品が中心です。一方、総合スーパーでは、食品以外にも、衣料品や家庭用電化製品、スポーツ用品など、様々なカテゴリーの商品を販売しています。いわゆる「万屋(よろずや)」さんですね。
佐藤 なるほど。ヤオコーさんには日用品はありますけど、家電はないですものね。
川野 昔は何でも揃っていることが一番便利とされ、それに勝るものはなかったんです。でも生活が多様化したり個性化したり、または高度化したりして、商品への要求水準がどんどん高まっていきました。すると、何でもあるだけでは満足していただけなくなったんですね。あなたのお店の特色は何か、とお客様に問われる時代になったのです。
佐藤 情報も溢れていますしね。
川野 昔は十人一色の生活をしていたのが、十人十色になって、今では一人十色の生活なんだと思います。お客様の求めるものが専門化した結果、万屋のままのデパートや百貨店、総合スーパーは、支持していただけなくなったのだと思います。
佐藤 それは出版業でも似たことがありますね。昔は月刊総合雑誌が売れていたんです。読みたい記事が3本あれば売れる、と言われていました。でも今はその衰退が著しい。代わりに何が出てきたかというと、新書なんですね。そのマーケットが広がった。月刊総合雑誌に出ていたようなテーマをより掘り下げ、一冊にまとめる。読者はそれを選んで買うようになりました。
川野 同じ現象だと思います。単純に言うと、お客様が生活のプロになったのです。プロに対して、モノやサービスを提供するわけですから、こちらもそれを超えるくらいのプロにならなければいけないのです。
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