文在寅がGSOMIAで米国に“宣戦布告” 「茹でガエル」戦術から一気に米韓同盟消滅?
お仕置きは「通貨危機」で?
――「宣戦布告してきた韓国」に対し、米国はどう出るのでしょうか。
鈴置: 「裏切りの代償の大きさを痛感させるため、韓国を思い切りぶん殴るだろう」と危惧する韓国人もいます。例えば、韓国を通貨危機に陥れるという手口があります。
1997年の通貨危機の際、韓国のドル不足を救おうとした日本に対し、米国は「もうドルを貸すな」と命じました。その結果、韓国はIMF(国際通貨基金)に救済されることになり、大恥をかきました。
当時の金泳三(キム・ヨンサム)政権は米軍の情報を中国に流すなど、「裏切り」がひどかったからです(『米韓同盟消滅』第2章第4節「『韓国の裏切り』に警告し続けた米国」参照)。
そんな「大技」を繰り出す前に米国は、韓国製品に対する輸入関税引き上げなど、まずは「軽い警告」を発するかもしれませんが。
朝鮮日報は11月18日の社説「GSOMIA破棄後の暴風を甘受できるのか」(韓国語版)で、「米国は自動車や鉄鋼製品の関税引き上げによる貿易面での報復に出るかもしれない」と懸念しています。
――米国は「在韓米軍を撤収するぞ」とも韓国を脅しているようですね。
鈴置: その脅しは「在韓米軍駐留経費への分担金」交渉のカードとして米国は使っています(「文在寅のせいで米国に見捨てられる 核武装しかないと言い始めた韓国の保守派」参照)。
米国は分担金を一気に5倍に引き上げると通告し、それを呑まないなら米軍を削減・撤収するぞ、と威嚇しているのです。
直接は関係ないように見えますが、GSOMIA破棄は米国の心証を相当に悪化させますから「削減・撤収」論を加速させるのは間違いありません。
茹でガエルの韓国人
――韓国人は今が「米韓同盟の危機」とは思わないのでしょうか?
鈴置: 冒頭で紹介したチョン・グァンフン牧師は「ゆでガエル」に例えて説明しています。「チョン・グァンフン、『米国に宣戦布告した文在寅、我々が処断しよう!』」の開始1分56秒後からです。
・熱いお湯に投げ込まれたカエルは驚いて飛び出す。一方、冷たい水に入れられ、少しずつ温められるカエルは「温かくなってきた」「神経痛に効くぞ」などと喜ぶ。そしてそのまま茹で殺されてしまうのだ。
左派政権が「米韓同盟をやめる」と言い出せば、ほとんどの韓国人は反対し政権打倒に立ち上がる。ところが、「反日」の糖衣でGSOMIA破棄をくるみ、いい気分にさせて米韓同盟を弱体化すれば反対は出ない。しかし、最後には怒った米国から同盟を打ち切られてしまう、との警告です。
――「反日は神経痛にも効く温かいお湯」ということですね。
鈴置: その通りです。韓国の世論調査会社、リアルメーターが11月15日にGSOMIAに関 し聞いたところ「破棄を維持するべきだ」と答えた人が55・4%、「破棄を撤回すべきだ」 とした人が33・2%いました。
過半の韓国人が「反日」のお湯につかり、知らず知らずのうちに米国との同盟を揺らすやり口に拍手喝采しているのです。青瓦台(大統領府)の高官が国民に向かって「破棄しても米国との同盟に影響はない」と言い続けた効果もあると思いますが。
――文在寅政権は破棄を撤回しないのでしょうか。
鈴置: 半数もの国民が支持する「破棄」をひっこめるのは難しい。ことにその多くが政権の支持者ですから、来年4月の総選挙を控え、このまま突っ走ると見る韓国人が多い。
本性を現わす文政権
――でも、米国は韓国を通貨危機に陥れるかもしれません。
鈴置: そうなれば、文在寅政権は通貨危機の責任を追及されるでしょう。ただその際、文在寅政権にはナショナリズムを煽ったうえ「米国との同盟をやめ、核を持つ北朝鮮とスクラムを組む」賭けに出る手があります。
――韓国人が米韓同盟からの離脱に同意するでしょうか。
鈴置: 巧妙な仕掛けが用意されています。1年前の2018年11月、韓国で映画「国家不渡りの日」が封切られました。日本でも「国家が破綻する日」との邦題で2019年11月に公開されました。
この映画のメッセージが実に興味深い。1997年の通貨危機によるIMF管理は全面的に米国の陰謀の結果だった、と主張しています。
韓国では「日本がカネを貸し剥がしたから危機に陥った」という説が定説でした。それを「米国悪者論」に塗り替えたのです。また、危機前に韓国が米国を裏切ったことにも一切、触れていません。
韓国では映画は国民の情緒をかき立て、世論を作る道具です。映画が説いたことが真実になるのです。この映画を見た韓国人が今後、通貨危機に遭遇したら、反米感情に身を焦がすのは間違いありません。米国が「再び」通貨危機に陥れたとして、韓国には反米ナショナリズムが燃え上がる可能性が高い。
その時、文在寅政権は本性を現わすと思います。「茹でガエル」戦術などという時間のかかる手法はうち捨て、米国との同盟から一気に離脱するでしょう。
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