一番スゴい「極限メシ」とは? 有名探検家が北極圏で食糧不足になった際、食べたモノ

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1日5000キロカロリーでも全然足りない

 作家・探検家である角幡氏は、チベットの奥地にあるツアンポー峡谷を旅し、『空白の五マイル』(集英社)にまとめ、2010年に開高健ノンフィクション賞を受賞した。

 西牟田氏は、角幡氏が2016年12月にグリーンランドのシオラパルクを出発し、約80日間、犬1頭と一緒にソリを引きながら、北極圏を旅したときのことを紹介。この旅については、『極夜行』(文藝春秋)で紹介されている。

「その時期の北極圏は“極夜”といって、4カ月ほど太陽が地平線から昇らないため、昼間でも真っ暗で、雪と氷だけの世界です。そんな過酷な環境を乗り越えるために、一体どんなものを食べていたのか、興味がそそられました」

 角幡氏が引くソリには150キロの食料や燃料などを積んでいたが、

「角幡さんは、食糧はほとんど日本から持って行ったそうです。現地では、食糧を調達するのは難しく、住民に迷惑をかけないためです。食事ですが、朝と夜はインスタントの辛ラーメン。これに高野豆腐や乾燥しいたけ、現地で調達したベーコンやアザラシの脂や肉を入れて食べた。あとは、アルファ米(熱湯や水を注入して食べる乾燥米)にカレー粉や塩、醤油などを入れて食べています。昼は、ソリを引きながら、ナッツやドライフルーツ、カロリーメイトなどをつまんだ。さらに、チョコレートを湯煎して溶かし、そこにきな粉とゴマ、サラダ油を入れて固め直したものを日本から持ってきて食べた。1日3食で、1キロの食材。カロリーだと5000キロカロリーです。成人男子が1日に摂る倍のカロリーですが、毎日重いソリを引くので運動量が半端ではない。それだけ食べても全然足りなかったそうです」

 そのため、旅を始めて2~3週目に身体に異変が起きたという。

「身体が疲れてくると子孫を残す本能が刺激されて、性欲が強くなった。エロいことを考え過ぎて、誤って乱氷帯に入り込んだこともあったそうです」

 が、1カ月を過ぎると性欲がまったくなくなったという。子孫を残すより、生命維持が優先されたからだ。

 角幡氏は、この極夜旅行に備えて、現地の人が所有する小屋に食糧や燃料をデポ(設置)していたが、

「デポしていた食糧が白クマに食い荒らされたのです。そのため食糧が不足し、ソリを引く犬に食糧を与える余裕がなくなり、犬はガリガリに痩せてしまったそうです。で、犬は何を食べたと思いますか。なんと角幡さんの大便を食べたそうです。彼は最終的には犬を食べて生き延びるしかないと覚悟したそうですが、そんなとき、近づいてきた狼を仕留めることができた。狼は知性が高く、暗闇では微妙な間合いを計っていて、人の心を覗き見るような視線を向けてくる。やっと仕留めることができたときは、さすがに罪悪感を抱いたそうですが、肉が手に入った喜びの方がずっと大きかったということです」

 角幡氏の『極夜行』によると、仕留めた狼はメスで体重は40キロ以上、捌くと、10キロ以上の肉と臓物がとれ、1週間分の食料になったそうだ。角幡氏は狼肉を薄切りにして鍋で炒め、塩をふりかけた。味に奥行きがあり、噛むほどに旨みが染みだし、絶品だった。とりわけ背中や首回りの柔らかい肉は極上で、脂も牛肉のような風味が口の中に広がったという。

 一生忘れない味に違いない――。

週刊新潮WEB取材班

2019年11月18日掲載

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