是枝監督も参戦、従軍慰安婦映画「主戦場」上映騒動にモヤモヤが止まらない
上映か、中止か。川崎市の映画祭で従軍慰安婦問題を扱った「主戦場」の公開を巡り、是枝裕和監督も参戦する大激論となった。「表現の自由」を盾に騒ぎ立てる者もいるのだが、本当にそうなのか。耳を傾けると、噛み合わない当事者の主張が浮かび上がってくる。
発端となったのは、10月25日の朝日新聞の報道である。27日から開かれている「KAWASAKIしんゆり映画祭」でドキュメンタリー映画「主戦場」の上映が中止された、と報じたのだ。
本題に入る前にこの映画についての解説をしたい。
従軍慰安婦問題を題材にしたこの作品は日系アメリカ人、ミキ・デザキ監督が制作。上智大の大学院生だった3年ほど前、「学術研究のため」という触れこみで、櫻井よしこ氏やケント・ギルバート氏など保守派を含めた論客へインタビューし、まとめたものだ。
ところが、商業映画となって公開されると、論客たちは中身にびっくり仰天。保守派のコメントは切り取られ、言い淀んだところを使われるなど、“歴史修正主義者”として糾弾される内容だった。結果、激怒した出演者が監督らを相手取り、上映差し止めの裁判を起こすなどの騒動に発展したのだ。
出演した「テキサス親父日本事務局」の藤木俊一氏が言う。
「私たちは大学の研究の一環と聞かされ、商業映画に利用されることは承知していませんでした。事前に映画を見せてもらうこともなく、騙されたような気分ですよ。さらに、映画ではテキサス親父こと、評論家のトニー・マラーノが作った動画が勝手に使われていて、明らかに著作権侵害。民事に加え、警察署に刑事告訴し、受理されています」
朝日の記事は、トラブル続きのこの映画が上映中止に至った理由を挙げている。共催者の川崎市が訴訟を抱えたまま上映することへの懸念を主催者に伝えたからだという。
中止の決定に反発したのは、映画人のお歴々。例えば、カンヌ国際映画祭でパルムドールを受賞した是枝裕和監督は、
〈主催者としてあるまじき判断で、作り手への敬意を欠いている〉
と発言し、俳優の井浦新氏も抗議の声を上げた。監督のミキ・デザキ氏に至っては、配給会社を通じて、
〈あいちトリエンナーレから始まり、今は私の映画が検閲を受けています〉
と、コメントを寄せた。
あいちトリエンナーレを引き合いに出し、川崎市という「公権力」が介入して上映を中止させた、と言いたいようなのだ。
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