威圧と恫喝に専門特化すればいい味出せるのに、正義を背負わされてしまうキムタクの悲しい性
サブタイトルは「威圧おじさん、故郷へ帰る」。主人公はパリの有名店で腕をふるっていた料理人。賓客にアレルギー食材が混入した料理を提供する失態をおかし、それを口汚く咎めた官僚に暴行まで働き、逮捕される。店は閉店に追い込まれ、抱えていた借入金は同僚に背負わせてトンズラ。たまたま遭遇した女料理人から金を引っ張れると踏み、日本に帰国。昔の同僚に声をかけて、三ツ星レストランを目指すという物語。
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威圧的で自己中心的、キャリアの割に年齢不詳。それでも「天才」だから許されるというのは、昭和ドラマの様式美でもある。いまだにこのスタイルを貫く勇気、すごい。さらに数字も獲るのだからあっぱれ。日曜劇場の時代劇バージョン「グランメゾン東京」だ。昭和風味はもはや時代劇よ。
日本における天才の意義を、ある意味変えた木村拓哉が久しぶりの主演。ファンが観たいショットがてんこ盛り。謎の若造りファッションでおパリの街を「やっべーな」と定番のやんちゃ風味で逃げまくるシーンに、疾走感はなくても拍手喝采の謎。さらに、料理よりも味見するシーンが多い。手元よりも顔のアップ。腕利きのシェフはよく味見をするのだと教えてくれる。
ただし、威圧的に人をどやしつけるパワハラシーンだけは迫力満点。そこにキムタクの類まれなる才能がある気がする。威圧と恫喝に専門特化すれば、いい味出せるのに(妻もその分野が得意そう)。正義を背負わされてしまう悲しい性。
問題は、これだけのはた迷惑な人物に、周囲の人間が巻き込まれるだけでなく、すんなりと、実に迅速に瞬殺でほだされていくところだ。すべては「天才だから」で片付ける。失態は濡れ衣、暴行にも理由があるというエクスキューズも早々に打ち出される。主役以外の登場人物の感情や背景の描写の薄さが「主役接待ドラマ」と言われても仕方ない。
食べただけでその料理に使われた素材がわかる鋭敏な舌をもつシェフの鈴木京香は、母が愛人だったという。妾腹(めかけばら)の苦悩、不遇の母の思いや大切なぬか床がある家を、いとも簡単に担保に差し出すなんて。そこにドラマがあるはずなのに。あまりにさらっと金を貢ぐ。つうか既に1千万円も融通している。博打打ちか。
キムタクに借金を背負わされて逃げられた沢村一樹も、パリ時代の嫉妬や恨みがもっとあってもおかしくない。ところがしょっぱなからまんまとほだされて。記憶喪失か。お人好しか。
パリの料理人時代、キムタクにいびられた及川光博も、初めは抵抗しつつ、娘をだしに使われ、まんまとほだされる。え、事件のせいで妻に逃げられたのに!?
表面上は抵抗しているように見えた玉森裕太も、結局は陣営に加わるわけよね。
必死に空気を読んで、微妙な摩擦すら避けたがる令和の時代に、威圧的で直情的な人間を「天才」「不器用」と受け入れる違和感。へんてこな増税に庶民が四苦八苦しとる時代に、高級おフレンチの蘊蓄(うんちく)と御託を並べる浮世離れ感。堂々と時代に逆行する姿勢が潔い。