田中圭、マツコ、浅田真央、木村文乃、デヴィ夫人……銘柄米CMがブームの理由
CMで消費者は米を買う?
翌11年の11月、やはり朝日新聞の北海道版に「ゆめぴりかって何ですか 道産米の最高級品種、首都圏でCM開始」という記事が掲載された。読んでみると、最初に起用されたのはマツコ・デラックスではなく、桐島かれん(55)だったことが分かった。記事の一部を引用させていただく。
《ゆめぴりかのおいしさを知ってもらおうと、制作したのが道外向けのCM「すいません」編だ。顧客の中心を担う主婦らに人気がある女優の桐島かれんさんを起用した。CMは、和服姿の桐島さんが割烹(かっぽう)料理店の看板に「ゆめぴりか」とあるのを見つけてのれんをくぐり、「ゆめぴりかって何ですか」と店主に尋ねる場面から始まる》
桐島の出演は11年だけで、翌12年はスザンヌ(32)が抜擢された。マツコ・デラックスが「ゆめぴりか」のCMに初めて出演したのは14年のことだった。
「2010年より前に、例えばローカル枠などで、お米のCMが放送された可能性は否定できません。しかしながら、文化人や芸能人という著名人を起用して本格的なCMを制作し、首都圏などの大都市圏で放送したとなると、山形県の『つや姫』が嚆矢だと考えていいのではないでしょうか。そして翌年に北海道の『ゆめぴりか』が追随したということでしょう」(同・記者)
ここでCMの効果に対して、疑問を感じる方もいるはずだ。果たしてテレビでブランド米のCMを見たとして、「あのお米を買いに行こう」と考えるのか。「ふーん」と興味を持ちながらも、スーパーでは最も安い米や、以前から食べている米を買うのが普通ではないか。
「つや姫」と「雪若丸」の販売戦略を担当する、山形県庁の県産米ブランド推進課を取材すると、「テレビCMの効果は大きく、販売量もアップしています」という答えが返ってきた。CMを見て「つや姫」や「雪若丸」を買う消費者は、決して少数派ではないという。
「『つや姫』は高品質を保つため、認定を受けた農家や農業法人といった方々しか栽培できません。2010年に認定を受けたのは2520の人や組織で、山形県内での作付面積は約2500ヘクタールでした。それが今年、認定数は5163と約2倍、県内での作付面積は約9500ヘクタールと約3・8倍になりました。『つや姫』の人気は生産や小売など、あらゆる関係者の皆さまが努力してくださった成果ではあります。しかし、やはりCMで知名度と消費者の関心が高まったことが、重要な要因の1つであると考えています」
山形県は「つや姫」を販売開始する10年10月を見据え、08年2月に「山形97号(つや姫)ブランド化戦略実施本部」を設立した。生産や販売、そして宣伝のプロも含めた外部委員31人が加わり、「日本一おいしい米として全国の消費者に評価されるブランド米」を目標に掲げて議論を行った。
だが、本部の中で「『つや姫』のテレビCMを制作、放映しよう」と、具体的に検討されたことはなかったという。CMのプランを打ち出したのは、意外な人物だった。
「家族が東京に住んでいる県職員がいたんです。ある時、その職員が『「つや姫」を東京の人に買ってもらうには、どうしたらいい?』と家族に相談したんですね。すると『都民に買ってもらいたかったら、テレビCMを流すべき』と助言してくれたそうです。もちろん広告とかマーケティングの専門家ではありません。でも、私たちは助言を伝え聞いて、『それならCMを作ろう』とチャレンジすることを決めました」(同・県産米ブランド推進課)
さっそく県産米ブランド推進課の職員は広告コンサルティングの会社を訪れ、CMの基礎を一から学んでいった。
「私たちもいろいろ勉強しましたし、広告代理店の皆さんをはじめとするプロの協力も得て、次第に内容を固めていきました。何よりも『つや姫』を高級ブランド米として認知してほしいと考えていました。ターゲットとしては、子育てが一段落し、金銭や時間の余裕がある、比較的高齢層の主婦や、業務用であれば高級な料亭や寿司店などをイメージしていました」(同)
[2/3ページ]