千葉台風連続被災で「憧れのプチ田舎暮らし」の夢が壊滅…移住者の明暗を分ける「物件選びの新基準」

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農村は意外にも災害に強い

 被災の間、地域を回って、たくさんの思うことがあった。第一には、携帯の通信が途絶して以降、消防団に上部組織からの指示が回らなくなってしまったこと。自主的に水を配ったり、敷地内の倒木処理などで動いた部員はいたようだが、こうした災害時に指示がなくてもやるべきことの通達を改めてしておくべきだったと思う。

 給水車が来るよりはるかに前に、発電機で井戸ポンプを動かせた世帯はいくつかあったし、独居高齢者の見回りなどもこの状況下では民生ではなく消防団の管轄だったように思うのだ。

 だが、それはそれとして、何より驚いたのは、「農村は意外にも災害に強い」ということだった。

 まず自動車がなければ生活できない、文字通り一家の1人に1台体制で自動車を所有しているため、自動車そのものが備蓄燃料になっているということ。我が家も車と2輪車と諸々計算したら、80リットル以上のガソリンを自宅に備蓄していることになる。農機具をあつかうため、ガソリン携行缶もあるし、その扱いも誰もが知っている。

 井戸ポンプがあるということは、条件を満たす発電機があれば、電気や上水道の回復を待たなくても水の確保ができる強みでもあるし、実際従業員を使うような規模の農園では高い確率でそうした発電機を所持している。前述したようにチェーンソーを保有する世帯も多いし、床下浸水などがあっても田畑に引水するためのエンジンポンプがあって、自力で排水できる世帯も多い。

 初秋ということもあって、食物も豊富だ。米作農家は栽培した米を自宅に1年分冷蔵しているし、毎日とれる作物もある。地域の独居高齢者に水を配りに回ったら、10kgぐらいの栗とか大量のトマトとか羽倉瓜などで食べきれないお返しをもらったぐらいだった。

 農村の高齢者の機動力はすごい。70代の男性が自前のブルーシートを手にハシゴで屋根に上って簡易補修をしてしまうし、80代の女性が古いトラクターに台車をつないで倒木を引きずる姿に、都会育ちは恥ずかしくなるほどだ。

電気復旧工事は国道沿い→県道→市道→家屋引き込み線

 一方、田舎暮らしという観点で言うと、移住先は農村ばかりではないし、農村にもいろいろなタイプがある。今後我々と同じように都市部からの移住を希望する者には、新たな物件やエリアの選択条件が出てきたように思う。

 まず物件についてだが、今回の台風災害はいわゆる「憧れの古民家」のリスクが大きく 露呈したと言ってもいいと思う。地域の中でも、我が家のような味気ないスレート屋根の家屋は棟板金の被災で済んだケースが多かったのに対し、昔ながらの瓦屋根は入母屋が丸々飛ばされた家屋まであった。特に田舎暮らしファンにとっては憧れの対象である「平屋大屋根」の古民家では広大な屋根を覆う銅板金が野地板ごと飛んでしまうケースもあり、補修費用もけた違い。1カ月以上経つ今もブルーシートのままという家屋が点々としている。

 また、建物の立地について、水災害や道路の法面崩壊などについては、ハザードマップや過去の浸水履歴、土砂災害の履歴である程度被害予測はできる。と、草稿には書いていたが、21号では戦後に水災害の履歴がない2級河川や用水路が越水を起こし、我が集落でも2級河川を中心に谷戸沿いが湖状態になった。水災害については「今回の21号で被災したかしないか」が検証の基準となったと思う。

 それより立地問題について注視すべきは、集落や自宅にアプローチする市道の選択肢が複数あるかどうかだ。我が家から少し離れたエリアの集落では、国道や住宅街からも非常に近い立地にもかかわらず、集落に至る道が1本しかなく、そのほぼ全域が倒木でふさがれたためにかなりの期間孤立した話を聞いた。

 同様の条件のエリアは2014年の豪雪時にも数日孤立があったと知られているし、今回の21号でも道路の大規模冠水で自宅が床上浸水しているのに車で外に出ることもできないという深刻な孤立が発生してしまった。一層のことこうした道路条件は不動産業者の説明事項に加えた方が良心的に思うほどだし、移住希望者も今後の物件選定ではやはり今回の21号の道路冠水による孤立の履歴を検証すべきだろう。

 また、電気インフラの点でも、細かい地域条件で明らかに復旧スピードが違うことに驚いた。最良はやはり国道沿いだろうか。基本的に復旧工事は国道沿い、県道、市道、家屋引き込み線の順で進んでいくが、入り組んだ市道のあちこちで電線の寸断があった我が家周辺は中でも最も復旧が後回しになっていた。むしろ集落そのものがほとんどなくて、県道沿いに数件家がポツポツというエリアのほうが復旧が早いのは、意外だ。

 15号被災の際、地域には東北電力からの応援隊や自衛隊のバイクも走り回っていたが、市道規模の道沿いで電線の寸断がある場合、そこにたどり着くため道の確保から始まり、場所の特定のために一本一本の市道を奥まで確認していく膨大な作業に、遠い目をしていた。

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