追悼・カネやん 身長220センチはあったかな(中川淳一郎)
400勝投手・金田正一氏が亡くなりました。金田氏は「週刊ポスト」と深い関係があり、「ご意見番」的に頻繁に登場していました。私は同誌をネットに転載するサイト「NEWSポストセブン」の編集をしているため、金田氏関連の記事を多数ウェブ向けに編集しました。昭和の球界の豪快なエピソードをカネやんは紹介してくれるとともに、現在の風潮に対して「ビシ、バシ、いわせてもらうでェ~」と歯に衣着せぬ独自の論を展開してくれました。
さて、金田氏にまつわるネット記事のタイトルの一部を紹介します。いずれも私がつけています。
〈「ワシの球速180km」金田正一氏、最もワシに近い存在は菅野〉
〈金田正一氏はiPhoneユーザー「ワシはLINEもやっとる」〉
〈巨人・菅野智之に金田正一氏「ワシとキミ、どっちが上だ?」〉
〈金田正一氏 球速180km説を確かめる記者に「200kmかな」〉
いずれもカネやんの実績に裏付けられたイヤミのない自慢が綴られるのですが、これらのタイトルをつけるのが楽しくて仕方がなかった。こんな仕事をしている私ですが、結局アクセスされるにはタイトルがどれだけ読者の気をひくかが重要です。
記事を読んで切り口を考えたうえで、いかにして「ワシ」という言葉を入れるかを考えながら日々編集作業をしていたのですが、上のタイトルは自分にとっても会心のデキでしたし、これらを読んだ読者も喜んでくれました。そして、カネやんが亡くなったあと、ツイッターにはこれらの記事を引用して紹介してくれる人が続々と登場し、カネやんを追悼してくれたのでした。
これぞ「編集者冥利に尽きる」というものです。今後「ワシ」やら「ワシの球速は新幹線よりも速い320kmじゃった」といった記事をもう編集できないと考えると悲しくて仕方がありません。
この原稿は東京・渋谷の居酒屋で書いていたのですが、この店の社長(79歳)が隣に来て「何をやってるんだい?」と言ってきました。「金田正一さんの追悼原稿を書いています」と言ったら途端に話しはじめました。
「カネやんは球界でもっとも走った人だし、体調管理をしっかりした人だ。あの人の言葉は『我慢、我慢、我慢』、と3回言うのよ。あとは『走れー!』というのがある。自分が一番走ったんでしょう。カネやんは努力の塊だと私は思う。私の地元、東京・大橋の焼肉屋で飲んだことがあるんだけど、ススキノでも会ったのよ。まさか札幌で会うとは思わないじゃないか。そこで『あー、カネやん!』ってこっちは4人いたけど言ったら飲みに付き合ってくれたんだよ」
こうしてカネやんのエピソードを話してくれたのですが、金田氏の「ワシの球速は180km」みたいな「マジかよ(笑)」みたいなエピソードをこの社長も話してくれました。
「いやぁ、ススキノでな、すげーでっかい男だから分かったけど、身長220センチぐらいはあったな」
いや、カネやんは184センチです。カネやんと知り合うと、とにかくダイナミックなことを言いたがる人になることは分かりました。