巨人、日本シリーズ大惨敗……直近10年で「セ・リーグ弱体化」の救いがたい“重症度”

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 ON対決となった2000年以来の巨人、ソフトバンク(2000年当時はダイエー)による日本シリーズはソフトバンクの4連勝であっけなく幕を閉じた。巨人が沸いたのは初戦の阿部慎之助の先制ホームラン、第3戦の亀井善行の先頭打者ホームランの時くらいで、終始ソフトバンクが圧倒し続けた印象を持ったファンが大半だった。この結果で、過去70回の日本シリーズの対戦成績はセ・パ35勝ずつとタイになった。改めて1950年代から10年毎のセ・パの対戦成績と最多優勝チームを並べて見ると以下のようになる。

1950年代:セ・リーグ5勝 パ・リーグ5勝 最多優勝:巨人4回
1960年代:セ・リーグ8勝 パ・リーグ2勝 最多優勝:巨人7回
1970年代:セ・リーグ6勝 パ・リーグ4勝 最多優勝:巨人4回
1980年代:セ・リーグ5勝 パ・リーグ5勝 最多優勝:西武5回
1990年代:セ・リーグ5勝 パ・リーグ5勝 最多優勝:西武・ヤクルト3回
2000年代:セ・リーグ5勝 パ・リーグ5勝 最多優勝:巨人3回
2010年代:セ・リーグ1勝 パ・リーグ9勝 最多優勝:ソフトバンク6回

 1965年からの巨人のV9以降、セ・パの対戦成績は拮抗した状態が続く。80年代後半に西武が黄金時代を迎え、巨人が勝てなくなると、1993年に逆指名ドラフトとFA制度が導入され、その恩恵を受けた巨人が2000年代は巻き返しを見せる。しかし、2000年代から大物選手のメジャー移籍が相次ぎ、2007年からドラフトの逆指名(廃止当時は希望入団枠)が廃止されると、巨人およびセ・リーグのアドバンテージは小さくなり、2010年代は完全にパ・リーグ優位の時代となっている。ちなみに2005年から始まったセ・パ交流戦でも15年間でパ・リーグが14度勝ち越しとパ・リーグを圧倒している。2004年に日本ハム入りした新庄剛志がオールスターでMVPを獲得した時に「これからはパ・リーグです!」と話したことがまさに現実となっている状況だ。

 ここまで主に制度の変遷について触れてきたが、それだけがパ・リーグ優位の原因ではない。パ・リーグの各球団がその制度に沿って、的確に補強を進めてきたことが今の結果に繋がっている。大きなきっかけとなったのが、2004年の球界再編騒動だ。オリックスと近鉄の合併を皮切りに1リーグ制への流れが加速したが、楽天の新規参入を承認することでパ・リーグは維持された。そしてこれを機にパ・リーグ全体が危機感を覚え、巨人とセ・リーグに頼らない経営を目指して、強化に本腰を入れるようになった。その大きな方針の一つが、自前での選手育成と若手抜擢の早期化だ。実績を残した選手はFAでセ・リーグ、もしくはアメリカに流出するものと覚悟を決め、将来に対する備えを早くから行うようになった。

 一方の巨人、阪神といったセ・リーグの球団は、育成よりも出来上がった選手の獲得に熱を上げ続け、その結果として、チームの新陳代謝が進まない現象を引き起こしている。2010年以降にパ・リーグからセ・リーグにFAで移籍した選手は以下の通りである。

藤井彰人(2010年):楽天→阪神
森本稀哲(2010年):日本ハム→横浜
小林宏之(2010年):ロッテ→阪神
杉内俊哉(2011年):ソフトバンク→巨人
日高剛(2012年):オリックス→阪神
片岡治大(2013年):西武→巨人
大引啓次(2014年):日本ハム→ヤクルト
成瀬善久(2014年):ロッテ→ヤクルト
脇谷亮太(2015年):西武→巨人
糸井嘉男(2016年):オリックス→阪神
森福允彦(2016年):ソフトバンク→巨人
陽岱鋼(2016年):日本ハム→巨人
野上亮磨(2017年):西武→巨人
大野奨太(2017年):日本ハム→中日
炭谷銀仁朗(2018年):西武→巨人
西勇輝(2018年):オリックス→阪神

 移籍した先でも、主力として申し分ない活躍を見せたのは杉内、糸井、西くらい。これを見ても、有効な補強になっていないことははっきりしている。その一方で、この期間に海外FAでは、和田毅(2011年・ソフトバンク→カブス)、岩隈久志(2011年・楽天→マリナーズ)、中島裕之(2012年・西武→アスレチックス)、田中賢介(2012年・日本ハム→ジャイアンツ)、平野佳寿(2017年・オリックス→ダイヤモンドバックス)などが、またポスティングシステムでも西岡剛(2010年・ロッテ→ツインズ)、ダルビッシュ有(2011年・日本ハム→レンジャーズ)、田中将大(2013年・楽天→ヤンキース)、大谷翔平(2017年・日本ハム→エンゼルス)、牧田和久(2017年・西武→パドレス)などがパ・リーグから移籍している。いかに、パ・リーグの球団がスター選手を輩出しているのがわかるだろう。

 ちなみに、この期間にセ・リーグからパ・リーグにFAで移籍したのは内川聖一(2010年・横浜→ソフトバンク)、サブロー(2011年・巨人→ロッテ)、中田賢一(2013年・中日→ソフトバンク)、木村昇吾(2015年・広島→西武)の4人であり、サブローはトレード直後の出戻り、木村はテストを受けての入団ということを考えれば、純粋なFA移籍はわずか2人である。パ・リーグ内での移籍は少なくないが、この数字を見てもパ・リーグがいかに自前で選手を育てているかがよくわかる。

 その傾向はドラフトにもよく表れている。2010年以降、1巡目指名で最も多く入札された選手をセ・リーグが引き当てた回数は2011年の高橋周平(3球団・中日)、2012年の藤浪晋太郎(4球団・阪神)、2018年の根尾昂(4球団・中日)と小園海斗(4球団・広島)しかいない。ちなみに、2011年は同じ3球団競合の藤岡貴裕はロッテが引き当てており、2012年も競合はしなかったものの、メジャー行きを表明していた大谷を日本ハムが単独指名している。大物選手に逃げずにトライしていることがよく分かる。

 そして、さらに大きいのがソフトバンクの千賀滉大、甲斐拓也に代表される育成契約出身の選手の台頭だ。その数は多くないものの、ロッテでは西野勇士が戦力となっており、それまで支配下登録のみで戦っていた、日本ハムも昨年から育成ドラフトに参加。西武は三軍制導入を発表し、オリックスも今年のドラフトで8人もの育成選手を指名した。

 一方のセ・リーグでは巨人が三軍制を導入して一定の成果は上げているものの、外から選手を獲得するせいで、若手の抜擢は遅れがちになっている。それ以外の球団ではなかなか育成選手の活用ができていない。このあたりにもパ・リーグの球団に一日の長があるといえる。

 この状況を打破するには、セ・リーグ6球団もパ・リーグに遅れていることを素直に認め、真摯に一から編成を見直す必要がある。そしてパ・リーグが2007年に「パシフィックリーグマーケティング」を設立したように、リーグ全体で盛り上げるという取り組みも重要になってくる。「人気のセ、実力のパ」と言われて久しいが、セ・リーグ各球団がどのようにして巻き返しを図るのか。2020年代のプロ野球の大きな焦点になるだろう。

西尾典文(にしお・のりふみ)
野球ライター。愛知県出身。1979年生まれ。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究。主に高校野球、大学野球、社会人野球を中心に年間300試合以上を現場で取材し、執筆活動を行う。ドラフト情報を研究する団体「プロアマ野球研究所(PABBlab)」主任研究員。

週刊新潮WEB取材班編集

2019年10月25日掲載

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