「いきなり!ステーキ」の9月売上は34%減、活かされていない“吉野家の教訓”
「いきなり!ステーキ」の経営が危機を迎えているという記事を、最近よく目にする。代表的な記事のタイトルを、時系列に沿ってご紹介しよう。
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◇2019年3月19日:日経ビジネス電子版
「いきなり!ステーキ、いきなり拡大し失速」(吉岡陽記者の署名原稿)
◇2019年3月26日:MONEY VOICE
「いきなり!ステーキ、いきなり業績不振へ。値上げしたら負ける国内デフレの深い闇」(ビジネスコンサルタント・今市太郎氏の署名原稿)
◇2019年6月11日:ITmedia ビジネスONLINE
「ちょっと前までチヤホヤされていた『いきなり!ステーキ』が、減速した理由」(ノンフィクションライター・窪田順生氏による署名原稿)
◇2019年10月16日:MAG2NEWS
「いきなり!ステーキ、売上35%減の大ピンチ。業績悪化3つの敗因」(店舗経営コンサルタント・佐藤昌司氏の署名原稿)
なぜ、これほど危機説が報じられているのか、ネットメディア「MAG2NEWS」、佐藤昌司氏の署名原稿から、冒頭部を引用させていただく。なお、引用はデイリー新潮の表記法に改めた(以下同)。
《ペッパーフードサービスが運営する「いきなり!ステーキ」が深刻な状況だ。8月の既存店売上高は前年同月比35・2%減と大きく落ち込んだ。前年割れは17カ月連続。しかも、悪いことにマイナス幅は拡大している。18年4月からマイナスが続いているが、18年4~12月の各月のマイナス幅は大きい時でも13%程度に過ぎなかった。しかし、19年1~6月は各月20~27%減とマイナス幅は拡大している。そして7月は29・6%減と大きく落ち込み、8月はさらに落ち込んだ。こうしてみると、月を追うごとに悪化していることがわかる》
佐藤氏が紹介した通り、外食産業の大手は毎月、売上と客数、客単価の前年同月比を発表するのが基本だ。
いきなり!ステーキの広報資料から昨年10月から今年9月までのデータを集め、新規店を含めた「全店の売上前年同月比」と、開店から15か月が経過した「既存店の売上げ前年同月比」がどのように推移しているか、折れ線グラフを作った。
さらにグラフには、国内店舗数の推移も加えた。いきなり!ステーキは強気の出店計画で知られる。例えば「フードリンクニュース」は今年2月28日、「いきなり!ステーキ、19年度も210店舗出店予定。既存店弱まるも、強気崩さず」との記事を報じている。ではグラフをご覧いただこう。
成長拡大路線の限界
右肩上がりのグラフは緑色1本であり、右肩下がりのグラフは青色とオレンジ色の2本となった。もちろん緑色は国内店舗数を示しており――増加率は減少傾向にあるとはいえ――同社が依然として成長拡大路線を堅持していることが分かる。
これに対し、青色で描いた「全店売上の前年同月比」と、オレンジ色の「既存店の前年同月比」の推移は、どちらも右肩下がりだ。これだけでも同社の経営が“順風満帆”ではないことが伝わってくるだろう。
だが、少なくとも昨年末までは、新規店を含めた全店売上が好調だったことは間違いない。18年10月の売上前年同月比は198・7%、11月は178・5%、12月は180・0%を記録していた。
その一方で、開店から15か月を過ぎた既存店では、昨年秋から苦しい状態にあったことも浮き彫りになった。18年10月の96・8%から始まり、今年9月の66・4%まで、常に前年同月比は100%を割り込んでいる。
こうした数字から、どんな経営状態であると分析できるのだろうか。外食産業を担当する記者が解説する。
「『いきなり!ステーキ』は新規出店をすると、全国的な知名度や物珍しさから、多くの来店者を集めていました。ところが既存店のデータから分かる通り、15か月が経つと消費者に飽きられてしまうのです」
それでも少なくとも今年の頭までは、「新規店の好調で、既存店の不調を補う」という経営が成り立っていた。それが出店の拡大路線を堅持していた理由の1つだとも考えられるが、これも今年の8月には崩壊の危機を迎えたようだ。
「8月の全店における前年同月比は95・4%、9月が93・3%と、2か月で100%を割りました。注目すべきは既存店で数字の悪化が進行していることで、今年2月からは70%台に突入。さらに8月は64・8%、9月は66・4%でした。少なからぬメディアが経営危機説を報じる理由でしょう」(同・記者)
フードサービス・ジャーナリストの千葉哲幸氏も「率直に申し上げて、見たこともない落ち込みです。外食産業の歴史の中で、これほど業績を悪化させた企業は記憶にありません」と指摘する。
「外食産業には、“適正な店舗数”が存在すると思います。吉野家で会長を務めた安部修仁氏(70)は1980年の倒産をについて、『慣性の法則』という言葉で原因を分析しました。当時の吉野家は100店舗記念のパーティを終えると、翌年の同じ日に200店舗達成パーティーの予約をしたほどの拡大路線。『慣性の法則』という譬え通り、店を増やすことは勢いで成功しました。しかし、店舗は粗製濫造、売上予測は不充分、社員教育の足りないスタッフが店長に就任し、全体の業績も悪化していったそうです」
牡蠣で経営を立て直し!?
千葉哲幸氏は、いきなり!ステーキの適正規模は「客単価2000円台で、店舗数500店」と分析する。今年の9月で店舗数は481店と発表されており、拡大路線の限界が近づいているのかもしれない。
もっとも、いきなり!ステーキも手をこまねいているわけではない。過度の出店が自社競合を生んでいるとは分析している。
一部店舗ではペッパーステーキへの業態変更を行っているほか、新機軸として生カキと焼きガキの提供を行う「オイスター+ステーキ by いきなり!ステーキ」を都内に数店舗オープンさせた。しかし千葉氏は、特にカキによるテコ入れには否定的だ。
「ステーキ屋さんでカキを売るというのは、客単価を上げたいという姿勢が見られますが、ご馳走を取って付けた印象があり、レストランとしてのストーリーとか主張が感じられません。消費増税があり、外食での消費を控える傾向がみられる中で、いきなり!ステーキは展開を始めた当初の『ステーキをお値打ちで食べられる』という原点に立ち返るべきだと思います」
普通の店舗でも、客単価は低迷している。こちらも18年10月から今年9月の推移を示す折れ線グラフを作ってみた。ご覧いただきたい。
基本はランチメニューである「CABワイルドステーキ」の300グラム1390円か「ワイルドハンバーグ」の300グラム1100円しか食べたことがないという常連客も、意外に多いのではないだろうか。
公式サイトの「メニュー」をクリックすると、一番上に表示されるのは「リブロースステーキ」だ。300グラムで2070円、400グラムで2760円という価格になる。これを「安い」と考える消費者は、どれくらい存在するだろうか。
前出の千葉氏は、「そもそも牛肉をお腹いっぱい食べたいという発想自体が、実は時代遅れなのかもしれません」と指摘する。
「小泉進次郎環境相(38)がニューヨークを訪れてステーキを食べた際、牛の穀物消費や二酸化炭素の排出を考えると、『牛肉はエコではないのではないか』と質問されました。牛肉を食べない運動と聞けば、ニューヨークのセレブ御用達というイメージをお持ちの方もおられるでしょう。しかし、ポール・マッカートニー(77)が提唱している『週に1度は菜食を実践する』という『ミートフリーマンデー』は、でも賛同者が増えています。今後、“日本人の牛肉離れ”が進むかもしれません」