高畑充希が可愛らしいキョトン顔で純真無垢という圧をかけてくる「同期のサクラ」

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 10月期ドラマ、どの局も意外と面白くて困っている。1話だけではわからん、もっと先まで観たい、と思うものが多い。あの「相棒」ですら「え、右京さんがパジャマ姿でラリってる?!」というスタートだったので、うっかり絵に描きたくなったほど。威厳を脱いだ水谷豊、久々によかったなぁ。

 仕方ないので、なんとなく先が読めるモノに手をつけておく。主人公が重い脳挫傷で入院というスタート、どうやらそれまでの10年間を振り返る系。くもりなき眼(まなこ)で猪突猛進するのが高畑充希。「過保護のカホコ」に続く日テレの遊川和彦劇場「同期のサクラ」である。

 自分が生まれ育った島に橋を架ける。そんな夢と希望を胸に、大手建設会社に就職した高畑。相手が誰であろうと間違っていることは即座に指摘、訂正なり改善を促しつつ、自分の意見も堂々と述べる。ただし、礼儀正しく理路整然と伝えるので、いちゃもん・文句・クレームには聞こえにくい。ま、相当自己中心的ではあるけれど、中身は正論だし。

 確固たる目標を持った高畑は、研修で一緒のチームになった同期たちをこれから爽やかに、半ば強制的に巻き込んで、人としての正しさをまき散らしていくのだろう。面白くないわけではない。高畑を含め、同期たちが毎回、1年ずつ成長する姿は楽しみでもある。

 ただ、「純真無垢ってある種の暴力だなぁ」とも思った次第。もうね、遊川組若頭の高畑が可愛らしいキョトン顔で圧力かけてくるわけよ。暴力と書くと語弊があるが、まあ、圧が強い。

 その圧に最初にモノ申したのが、同期の中のクールビューティ・橋本愛。さして興味も持たぬまま、建設会社へ。きつい・きたない・くさいを敬遠、華やかな部署希望の腰掛女子のようだ。

 研修後に発表する模型の精度を上げるため、ダメ出しを繰り返す高畑に、ブチ切れた橋本。本人に直接ぶつけるにしては致命傷の言葉をまあ次から次へと吐く。滲み出る性格の悪さ、見え隠れする嫉妬。いいね、橋本のこういう顔は久しぶり。

 で、高畑の圧を受け流してきたのが、男子の同期3人。上昇志向は強いが、ノービジョン、事なかれ主義の新田真剣佑(あらたまっけんゆう)。ドラマでは常に悲劇や苦悩や孤独を背負わされてきた真剣佑だが、今回のチャラくて身軽な感じは新鮮だ。応援団出身の心優しいお人好しには適役の竜星涼、NOと言えない典型的サブポジションには職人芸の岡山天音(あまね)。高畑という強烈なキャラに、ベストバランスの同期である。

 また、決して順風満帆ではないところもいい。逆朝ドラヒロインだな。最近の朝ドラほど、世の中は甘くはないわけで。研修中、粉骨砕身した高畑だけが希望の部署(土木部)に行けず、人事部預かりという謎の配属に。人事部長の椎名桔平が高畑を育て上げる算段か。

 無垢な人には、毒がある。周囲の人間は汚れている自分を恥じて自信を失う。嫉妬もする。敵や壁を作るきっかけにもなりうる。無垢は決して無害ではない。特に社会人1年生の、そんな不安定な心模様をきっちり描いてくれるんだろうなぁ。

吉田潮(よしだ・うしお)
テレビ評論家、ライター、イラストレーター。1972年生まれの千葉県人。編集プロダクション勤務を経て、2001年よりフリーランスに。2010年より「週刊新潮」にて「TV ふうーん録」の連載を開始(※連載中)。主要なテレビ番組はほぼすべて視聴している。

週刊新潮 2019年10月24日号掲載

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