國分文也(丸紅株式会社取締役会長)【佐藤優の頂上対決/我々はどう生き残るか】
失われる寛容性
國分 若い人たちを見ていて感じるのは、先ほどの同質性ともう一つ、寛容性がひどく狭まっているということなんですね。自分の考えと合わない異質なものに対する許容度が前よりも下がってきている気がする。
佐藤 チッ、と舌打ちして「キモッ」の一言で遮断してしまいますよね。成績のいい子もそう。寛容に見えるのだけど、お互い接触面を増やすとそこから軋轢が生じるから、あえて接していないだけなんですよね。
國分 だからいろんな人がいて当たり前という許容度が、会社にもなくなってきている。
佐藤 これには偏差値教育も関係していますね。今の教育は、加熱と冷却の仕組みでできている。頑張っていい学校に入れと言われるけど、偏差値が足りないとランクを落とさせる。加熱して冷却させる。それが競争のさまざまな局面で繰り返し起きている。同志社大学の松岡敬学長にその話をしたら、「それはヤキを入れることだな」と言っていました。学長は機械の専門家なんです。刃物はヤキを入れるとよく切れるようになる。けれどもそれを繰り返すと、もろくなる。彼らは折れやすいことを知っているから、他人と関わらない。
國分 なるほど。寛容性はこれからの社会のキーワードになっていくと思います。その意味では、現在のアメリカなんか、多様性や寛容性にネガティブなセンチメント(市場心理)が強く出てきて、この先、国力を維持できるのかなと思いますね。
佐藤 多様性や寛容性を得るにはやはり人的な交流が重要ですよ。國分さんも大手企業や地方銀行との人材交流を始められていますが、総合商社と霞が関の交流なんてどうですか?
國分 霞が関ですか。
佐藤 例えば20代後半から30代前半の若手が大使館の2等書記官になる。
國分 本省とは、当社も人材交流をさせて頂いています。
佐藤 社長や会長をやられた方が大使として行くことがありますね。でもむしろ20代30代のうちに異質な文化を経験させる。例えばアフリカなんかいいですよ。
國分 アフリカはいま相当力を入れています。駐在員だけで40人近くいる。月並みな表現ですが、我々の未来をかけていると言っていい。ただ人脈にしてもネットワーク作りにしても、全く違うルールなんですね。
佐藤 商社でいきなりアフリカの国に行っても、住むところから全部自前でやらなくてはならない。生活の設営だけでエネルギーの8割くらい取られてしまう。恣意的な関税もあるし、賄賂も横行していますからね。ところが外交官ならそのストレスが少なくてすむ。
國分 今、タンザニアで面白い事業があります。キオスクみたいな店のチェーンに太陽光で発電するランタンを貸し出す事業で、そのチェーン店のネットワークをプラットフォームにして何か事業を乗せられないか考えているんですね。弊社が出資し、人材も派遣しています。
佐藤 まずはインフラですよね。電気を引いたり道路造ったり、そこからやらなきゃならない。民間企業にはできないこともあるから、やはりODAを使って効率的に進めるのがいい。それはビジネス環境の整備にもなります。これからはアフリカの取り合いになりますから、ここは戦略的にやっていかないといけない。
國分 大掛かりな仕掛けはやはりオールジャパンで、しかもいろんな人材とやらないとできないですね。
佐藤 そのためにも、アフリカの大使館との人材交流をお勧めしますよ。
[3/3ページ]