事故に遭いやすい? ブチギレやすくなる? 起業したくなる? 人間をも操る寄生虫の正体とは 【えげつない寄生生物】

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交通事故に遭いやすくなる

 2006年にトルコで発表された研究では、過去に交通事故を経験した21~40歳の男女185人の運転者と交通事故を経験していない185人(対照群)に対してトキソプラズマに対する2種類の抗体を調べました。

 1つはIgM型抗体というもので、これはトキソプラズマに感染して1週間以内ですぐに現れる抗体ですが、感染後3~6カ月後には体内から消えてしまいます。つまり、このIgM抗体を持っている人はごく最近、トキソプラズマに感染した初期感染者であることを示します。そして、もう一方のIgG型抗体は感染の初期だけでなく治癒後にも産出されるため、この抗体を持っている人はトキソプラズマに感染した経験があることを示します。

 この論文では交通事故を経験した人のうち3.24%がIgM型抗体を持ちトキソプラズマの初期感染が疑われました。しかし、同様の年齢層で同じ地域に住む対照群の人でこの抗体をもっていたのは0.54%にとどまり、その割合の差は6倍にもなっていました。

 さらに、過去を含めてトキソプラズマに感染した証拠となるIgG型抗体を持つ人の割合は、交通事故を経験した人では24.3%となり約4人に1人がトキソプラズマに感染した経験を示しましたが、対照群では6.5%しかこの抗体を持っていませんでした。

 これらのことから、トキソプラズマの感染と交通事故の危険性の間には相関があるのではないかと考えられ、交通事故を防止するための戦略を練る際には、運転者の潜在的なトキソプラズマ感染の有無を考慮する必要があるかもしれないと考察されています。

 さらに、2009年にチェコでは、プラハの中央軍事病院に定期検査のために訪れた3890名の新兵に対して、トキソプラズマ感染と血液のRhD表現型との関連について調査されました。

 調査の結果、トキソプラズマに感染しているRhD陰性の血液型を持つ兵士は、感染していないRhD陽性の血液型を持つ兵士の6倍も多く交通事故を起こしていたことが明らかになっています。RhD陰性の血液型、つまりはRhDタンパク質が無いことがトキソプラズマとどのように関係して交通事故の発生率を高めているのかは定かではありませんが、これらが何かしら作用していることは明らかです。

なぜトキソプラズマに感染すると事故を起こしやすくなるのか?

 なぜトキソプラズマに感染すると事故を起こしやすくなるのか? その理由の1つとして、トキソプラズマに感染すると反応時間が遅くなるためではないかと考えられています。単純な反応時間を測るテストを行ったところ、トキソプラズマに感染している人々は感染していない同年代の人々よりも反応時間が遅いという特徴もみられました。

ブチギレやすくなる?

 シカゴ大学で1991年から行ってきた研究をベースに発表された論文では、キレやすい人とトキソプラズマ感染の関係について論じています。

 この実験では新聞・雑誌に「キレる人」の募集広告を掲載し、数週間に1回、数カ月に1回のペースで定期的にキレる人たちを集めました。この場合の「キレる人」というのは、うつ病や不安神経症は併発しておらず、普段はいたって正常にもかかわらず、なんらかのきっかけで発作的に手が付けられなくなってしまう人のことです。

 この調査では、いわゆる「キレる人」と「普通の人」の間でトキソプラズマ感染率が違ったのです。「キレる人」と「普通の人」合わせて358人のうち、「普通の人」のトキソプラズマ感染率は9%で、「キレる人」の感染率は22%だったのです。また、トキソプラズマ原虫に感染すると、「キレる人」でも「普通の人」でも怒りと攻撃性の度合いが高いという傾向がありました。しかし、うつや不安神経症が増えるという傾向はありませんでした。

 もし、トキソプラズマがメンタルに障害を与えるとしたら、主に2つの仮説が考えられるようです。1つはトキソプラズマ原虫は1度感染すると、体内から完全にいなくなることはなく、免疫で抑えている状態になります。そのため、何らかの原因で免疫系が弱まると、体内にいるトキソプラズマが再活性化してメンタルに影響を与えるという仮説です。2つ目の仮説は、トキソプラズマ原虫に感染すると免疫系そのものが感染を抑えるために常に働き、疲弊してしまうためメンタルに悪影響を与えるという仮説です。

 この結果だけでは、トキソプラズマ原虫がキレることを引き起こすと実証されたわけではありませんが、突発的な怒りとトキソプラズマの感染の間には何らかの関係がありそうに思います。

感染による影響は男女で差が出る:男性は嫉妬深く、女性は愛情豊かに?

 トキソプラズマの慢性感染によりヒトの行動や人格にも変化が現れるという研究結果はいくつかあり、しかも、男女でその変化には違いがありそうだということもわかってきました。

 感染している男性は、集中力の欠如が見られたり、危険な行動に走ったりしやすく、独断的で、猜疑的で、嫉妬深くなる傾向が見られました。一方、感染した女性は社会的で、より知的、友好的で、自分に満足しており、自信があり、社会ルールを重んじ、感受性や愛情が豊かな傾向にあったのです。そして、共通していたのは男女ともに感染している人は、感染していない人に比べてより不安を感じるという点でした。

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