台風19号から首都圏を護った埼玉の「地下神殿」 浸水被害軽減効果は10年間で1000億円
1秒で25メートルプール1杯分を排水
春日部市の地下22メートルにある調圧水槽は、長さ177メートル、幅78メートル、高さ18メートル。この空間に、巨大な柱が59本そそり立っている。柱は1本あたり奥行き7メートル、幅2メートル、高さ18メートルで、重さは500トンにもなる。巨大で荘厳な空間に圧倒されてしまう。そのためか、映画やテレビドラマのロケに使われ、2005年に公開された映画『仮面ライダー THE FIRST』では、ショッカーの秘密基地として使われた。
12年11月には、米CNNが巨大な地下トンネルの内部を取材した。
〈入り口は常に施錠されていて、ほとんど目立たないため、何度も前を通り過ぎているのに気付かない人もいるかもしれない。しかし内部は極めて特徴的な施設だ。入口を入って幾つか階段を降りると、SF映画にでも登場しそうな巨大ホールにたどり着く。(中略)雨が降って立坑とトンネルに雨水がたまると排水機構が稼働する。排水機構の中心にあるのは4基のタービン。ボーイング737型旅客機に搭載されるようなジェットエンジンを使って、近くを流れる江戸川に雨水を放流する〉
調圧水槽に貯まった水は、4台の巨大ポンプで江戸川に排水される。ポンプは、航空機用に開発されたガスタービンを改造したもので、出力は1台で1万4000馬力。ポンプ駆動用として国内最大級という。4台のポンプをフル稼働させると、排水能力は1秒間に200立法メートル。具体的には、小学校の25メートルプール1杯分の水を排水できるという。
首都圏外郭放水路は、先に述べたように完成は2006年。しかし、早く洪水被害を防ぐために、2002年に第3立坑までの3・3キロ区間を部分稼働させた。
「これにより、04年10月の98人の死者・行方不明者を出した台風23号では、排水量は670万トンで64億円の浸水被害軽減効果がありました。06年の完成以降で言えば、20人の死者を出した15年9月の台風17号・18号による『関東・東北豪雨』で、排水量は1900万トンで373億円の浸水被害軽減効果をもたらしています」(江戸川河川事務所)
首都圏外郭放水路が完成してから10年間(17年10月まで)で浸水被害軽減効果は1008億円にものぼるという。稼働数は年平均約7回で、うち、ポンプ稼働が約4回、排水なしの貯留だけは約3回という。
「今回の台風19号ですが、12日午前11時半に、18号水路から水が入り始め、午後6時に5つの河川すべての水が流入しました。すべての施設がフル稼働するのは、15年の『関東・東北豪雨』以来2回目となります。12日から15日朝7時までの排出量は1200万トンとなっています」(同)
尚、首都圏外郭放水路は、「地下神殿」などを見学することができる。3コースあって料金は1000~3000円となっている。
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