台風19号から首都圏を護った埼玉の「地下神殿」 浸水被害軽減効果は10年間で1000億円
長野県の千曲川など47河川の66カ所で堤防が決壊し(10月15日時点)、各地で甚大な洪水被害をもたらした台風19号。史上最大規模と言われた台風が猛威をふるう中、首都圏は大きな洪水被害を受けずに済んだ。そのため、通称「地下神殿」と呼ばれる「首都圏外郭放水路」が、再び注目されている。小規模なダムと同等の貯水量を有する世界最大の治水施設は、実際、首都圏で台風19号の被害をどのくらい食い止めてくれたのか。
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放水路とは、洪水を防ぐため、河川の途中に新しい川を分岐して作り、海や他の河川に放流する人口水路で、全国に50カ所以上ある。
首都圏外郭放水路は、荒川や江戸川、利根川といった大きな河川に囲まれた、中川・綾瀬川流域の地下にある地下放水路である。
「住所でいえば、埼玉県の春日部、草加、越谷の3市に跨っていることになります。上流から流れてきた水をここで取り込むので、下流にある東京への負荷を減らすことができます」
と解説するのは、国土交通省関東地方整備局・江戸川河川事務所の広報担当者。
「荒川や江戸川、利根川といった大きな河川に囲まれた中川・綾瀬川流域は、水が貯まりやすい皿のような地形になっているため、昔から大雨が降るたびに水害に見舞われていました。昭和30年代に草加市や越谷市の都市化が進んで東京のベットタウンとなったため、総合治水対策を進めました。堤防を築いたり、川底を掘ったり、下水道を整備していったのですが、それでも水害を食い止めることができませんでした。そこで、大掛かりな治水施設を作ることになったのです」
着工は1993年。完成は13年後の2006年。総工費は2300億円だという。
「中川・綾瀬川流域には、中川、倉松川、幸松川、大落古利根川など、小さな河川があり、大雨になるとすぐに水位が上がって溢れます。その溢れた水を取り込んで、強固な堤防を持つ江戸川に放水して洪水を防ぎます」(同)
首都圏外郭放水路には、中川や倉松川など、5つの河川の堤防に越流堤という溢れた水の取り込み口がある。川の水位が上昇して越流堤の高さを超えると、自然に水が流れ込む仕組みだ。取り込まれた水は立坑に貯められる。立坑は内径約30メートル、深さは70メートル。アメリカのスペースシャトルや自由の女神がすっぽり入る大きさだ。立坑は、第1立坑から第5立坑まで5本あり、それぞれ国道16号の地下50メートルにある内径約10メートルの放水路で繋がっている。全長は、春日部市上金崎から小渕まで約6・3キロ。この放水路を掘削した際に出た土は、江戸川の堤防に再利用されたという。
5本の立坑のうち、河川から水を取り込むのは第2立坑から第5立坑までの4本。取り込んだ水は放水路を通って第1立坑に集められ、“地下神殿”と呼ばれる調圧水槽に送られる。調圧水槽は、放水路から流れてきた水の勢いを弱め、江戸川へスムーズに放出するための施設だ。
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