中家徹(JA全中 会長)【佐藤優の頂上対決/我々はどう生き残るか】

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農業活性化のために

中家 これから先、心配しているのは、やっぱり労働力不足なんですよ。私の家はみかんと梅を作っていましたが、収穫時期はどこの家でも人手が要るんですね。しかし、人がいないため賃金が暴騰してます。

佐藤 農業が生活から遠くなっていますから、そちらに目がいかない。ここ20年くらい、新卒で就職した人は3年以内に3割が辞めるんですね。高卒だと4割くらい。私はこの人たちに自分たちのキャリアパスとして農業を勧めてみたらと思うんです。意外とうまく入ってこれる人はいるんじゃないか。転職のチョイスの一つに農業を入れることは、若い人にも重要なことだと思うんですよね。

中家 それはいいですね。

佐藤 外国人労働者についてはどうですか。

中家 昨年、外国人を雇用できるよう門戸が開かれてありがたいな、とは思ったんですが、やっぱりトラブルは多いんですよ。突然、いなくなってしまったとか、給料で揉めたりとか。

佐藤 移民に関しては、入り口をきちんと政策で決めないとダメだと思います。何年かで帰ってもらう、日本の出稼ぎみたいなものを想定すると、家族は連れてこれないですよね。でも日本で定住する人を受け入れるとなると、全然変わってくる。子供ができる、孫ができる、その子たちは日本語をしゃべる。それなのに社会が受け入れないと、優秀で鬱屈した人ほど大変なトラブルを起こすようになる。

中家 移民については慎重に対応しなければ、とは思っています。

佐藤 アメリカみたいな国は2世も3世も関係ないのですが、伝統的な社会構成になっているドイツなどヨーロッパでは問題が起きる。だから日本がどちらに近いのか、よく見て決めないといけないですね。

中家 労働者不足には、農水省が進める農業と福祉の連携、つまり障害者雇用を積極的にやろうとしているんです。

佐藤 農福連携は重要になってくると思いますね。三重のネギ工場で知的障害者の作業を見せてもらったことがあります。ネギの泥を取るだけの単純作業ですが、現金収入で安定している。今は工場を誘致しても、技術的に追いつかれたらすぐ撤退する可能性があるから、あてにならない。それに比べるとネギはなくならない。

中家 数十のJAでそういう取り組みをしています。仕事の種類はいろいろあるので、障害に合った仕事を提供できる。我々は人手不足を解消できるし、障害者の方は仕事があることで生活に張りが出るし安定する。ウィン・ウィンでお互いにメリットがあります。

佐藤 そこも農業の多面的なところですね。ロシアで印象的だったのは、政府の高官とか金融資本家として成功した人たちは郊外に別荘を持っていて、そこに畑がついているんですね。ジャガイモやトマト、キュウリなんかを作っている。買わないのかと聞いてみたら、ロシア人は土に結びついた民なんだと。土に触れることで考えが豊かになるんだと言うんです。ヨーロッパで国産品を食べる、つまりは地産地消しているのは、土に触れることが重要だという感覚があるのかもしれない。私もプランターにイチゴとか朝顔、プチトマトなどを植えているんですが、これ、ロシア人の影響です。

中家 今はプランターでなんでも作れますからね。

佐藤 プチトマトを収穫したら、あんまりうまくない(笑)。そこで農業者が作っているトマトのレベルがいかに高いかを知る。

中家 自分で作ることでその難しさや苦労を実感して、農業について、いっときでも考えてもらえたらと思います。

中家徹(なかやとおる) 全国農業協同組合中央会(JA全中)会長
1949年和歌山県田辺市生まれ。梅とみかん農家の長男。全中が設立した中央協同組合学園を卒業後、紀南農協入組。営農部長、企画管理部長、参事、専務理事などを経て、2004年JA紀南代表理事組合長。12年からはJA和歌山中央会・信連・県農・共済連の共通会長となる。14年にJA全中副会長、17年に会長に就任した。

週刊新潮 2019年10月10日号掲載

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