「サンデーモーニング」が「シューイチ」に初めて敗れる 日曜朝の情報番組に異変
議論も相互批判もなく…
「今の『サンデーモーニング』には議論がない」とネットテレビなどで嘆いているのはケント・ギルバート氏(67)である。保守派の論客であるものの、1987年からの10年間、「サンデーモーニング」のコメンテーターを務めていた。ときにはリベラル派のコメンテーターと番組内で白熱した議論を交わすこともあった。
日曜の朝に丁々発止のやり取りは相応しくないのかもしれないが、確かに近年の「サンデーモーニング」には議論が見当たらず、出演者同士の相互批判もない。半面、TBS以外の外部メディアに対する批判は厭わない。9月1日の放送ではコメンテーターのジャーナリスト・青木理氏(52)から「日本の報道は韓国批判一色」「韓国だったら何を言ってもいいみたいな人たちが(嫌韓を)煽っている」といった意見が出た。
翌週9月8日のオピニオンコーナー「風をよむ」では、「炎上商法とメディア」と題した特集を組み、「韓国なんか要らない」との特集を掲載した同2日発売の「週刊ポスト」(小学館)について、出版不況を背景とする炎上商法ではないかという見解を示した。
ここで疑問が生じる。コメンテーターの法学者・谷口真由美氏(44)は8月11日、「表現の自由と公共の福祉」と題した解説を、黒板を使って行った。説明するまでもなく、背景にあったのは、「あいちトリエンナーレ2019」の「表現の不自由展」である。谷口氏は憲法21条に定められた「表現の自由」を説明したあと、フランスの哲学者・ヴォルテールが残したとされる有名な言葉を紹介した。
「私はあなたの意見には反対だ。だが、あなたがそれを主張する権利は命をかけて守る」
では、「サンデーモーニング」はどうなのだろう? 嫌韓論の良し悪しは別として、その存在そのものすら全面否認しているのではないか。保守的な論調すべてに対し、そう見えてしまう。なにも嫌韓論や保守論調を擁護するつもりはない。番組に合わない意見にも寛容だろうか、ということである。
議論も出演者同士の相互批判もなく、外部メディアや番組の論調とは違う意見への批判は目立つので、この番組はややもすると権威的に見えてしまう。出演者の多くが世間で知的エリートと目される学者や元官僚、ジャーナリストで、しかもほぼ固定化されているから、なおさらである。くだけたトークがほとんどないせいもあるだろう。
黒板を使った解説も見る人によっては不快かもしれない。まるで教師が生徒に向かって“教えてあげる”と言っているようにも映る。これも権威的に見えてしまう一因ではないか。「シューイチ」に敗れた理由と、この番組を苦手とする人が少なくない訳は、この辺りにもある気がする。
「一昔前までは、その道のプロの解説を聞くのが情報番組のスタイルでしたが、今の時代はそれには若者らに抵抗があるのかもしれません。大抵のことはネットで分かるのですから。今は新しい情報を幅広く紹介する番組が求められているのかもしれない」(前出・元フジテレビ報道局解説委員でジャーナリストの安倍宏行氏)
では、放送開始から8年半でトップに立った「シューイチ」の中身はどうかというと、「サンデーモーニング」とは極端なまでに違う。軽くて庶民的。政治や事件も扱うが、芸能、グルメ、サウナ事情もやる。10月6日放送ではやはり小学館の雑誌を取り上げたが、「週刊ポスト」ではなく、リアルな付録が話題の幼児向け誌「幼稚園」だった。解説はあるが、オピニオン色は薄い。
両番組の視聴率争いはまだ続く。「シューイチ」がトップを守れるかどうかは分からない。ただし、視聴者ニーズは確実に変化しているようだ。
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