「恩赦」の意外な問題点 過去には死刑囚が減刑され、殺人未遂事件を起こした例も
過去には公選法違反の4300人も対象に
恩赦というと、凶悪な罪を犯して死刑や無期懲役を受けた受刑者でも、無罪放免になって釈放されるといったイメージを持っている人もいるかもしれない。
確かに1952年のサンフランシスコ平和条約締結時の恩赦では、14人の死刑囚が減刑された。この際、49年に19歳で小田原一家5人殺害事件を起こした死刑囚が無期懲役に減刑されたが、70年3月に仮釈放となった後、模範囚として出獄。
その後84年7月、同棲中だった13歳の家出少女を、別れ話のこじれから7カ所刺した上、この少女の友人に対しても3カ所刺すなどし、殺人未遂事件の犯人として逮捕される。
この事件で懲役8年を宣告され、仮出所も取り消しとなり、結局2009年に獄死する結果となった。
そのような事例があったため、今後死刑囚に恩赦を与えるとなると、国民の理解はなかなか得られまい。
「近年の恩赦の傾向では、軽微かつ被害者がいない犯罪や罰金刑しか法定されていないような微罪の特赦や減刑、公職選挙法違反で公民権停止になった者の資格の復権などが中心になると考えられます。なので、凶悪犯が野に放たれることはほぼあり得ません」
一方で、恩赦制度そのものに合理的な理由がない点を指摘する声もある。
「恩赦は憲法上に規定されている制度ですが、国会が定めた法律に基づき、裁判所が判断した判決について、その効果を内閣が消滅させるものです。つまり、行政が立法及び司法の行為を一部覆す行為ともいえるため、権力分立の原則からして恩赦の運用は慎重になされるべきです。たとえ国家の慶弔時とはいえ、多くの犯罪者たちに恩赦を行うことに説得力のある説明はなかなか難しいでしょう」
1990年11月、今上天皇御即位の礼により実施された政令恩赦では、公民権の復権が行われたが、その際もこんな問題が浮き彫りになった。
「そのときの恩赦の対象には同年の衆議院議員選挙違反で罰金刑を受けた約4300人も含まれており、“政治恩赦”だとの批判が出ました。しかし、内閣が政治的な意図で恣意的な決定をしていないか、恩赦の内容をチェックする仕組みそのものがありません。また、個別恩赦を希望しても不相当だと判断された場合、その判断に対する異議申立ての手続きができないことも問題視されています。このように、恩赦の運用を監督・是正する制度がない点は改善の余地があるかと思います」
公選法に違反した者たちへの救済の是非以外にも、被害者感情への配慮などの観点からも、恩赦の対象者は慎重に選ぶ必要がある。
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