グレタさん礼賛一辺倒に見る「ポピュリズム」と「ナウシカ現象」

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利権を狙う大人たち

 もちろん、強烈な言葉を用いたからこそ、グレタさんのスピーチがここまで注目を浴びたのは事実だ。

 とはいえ、ジャーナリストの徳岡孝夫氏が言うには、

「欧米のメディアが彼女の攻撃的な発言を“たどたどしいけれど一生懸命に訴えている”と評価するのはまだ理解できます。ただ、日本のメディアが彼女を褒めるのは欧米の報道をマネしているだけ。日本人の感覚では、子どもが大人に対して命令口調を使うこと自体に違和感を覚える。彼女のような物言いでは日本の大人は反感を覚えることはあっても、説得されることはないでしょう。日本以上に年配者を敬うイスラム圏でも、彼女のスピーチは通用しないと思いますよ」

 他方、評論家の唐沢俊一氏は次のように指摘する。

「汚れなき少女の思いが世界を変えるというのは、古くから続くファンタジー。オタク界隈では『風の谷のナウシカ』になぞらえて“ナウシカ現象”と呼びます。実際、自然を愛する勇気ある乙女という点で、グレタさんとナウシカは重なる部分がある。ただし、大人を怒鳴りつけるグレタさんのイメージは、これまでのか弱く純粋な少女像には当てはまりません。マララさんがパキスタンの太陽だとすると、さしずめ彼女はスウェーデンから吹きつける北風です」

 唐沢氏もグレタさんが口にする大人たちへの憎悪を疑問視する。

「温暖化問題を巡っては、世代間の対立よりも、先進国と新興国の対立の方が根深い。いち早く産業革命を成し遂げて豊かな暮らしを享受する先進国に対して、新興国はいまだ発展の途上にあります。そんな国々に自然を破壊するな、化石燃料を使うなと説いても納得するはずがない。新興国で貧困にあえぐ子どもたちの未来は一体どうなるのでしょうか」

 さらに、評論家の呉智英氏も手厳しい。

「仮に人間の生活が化石燃料を軸とするものから、クリーンなエネルギーによるものに変われば、そこに莫大な利権が生まれます。たとえグレタさんが純粋な気持ちで活動していても、背後には虎視眈々と利権を狙うエコロジストやエネルギー企業のビジネスマンが控えている。結局、グレタさんの意見は先進国の一部の人間にとって都合の良いことばかりなのです。さらに、エコロジーは限りある資源をどう分配するかという問題に行き着く。これは極めて政治的な課題で、綺麗ごとではなく妥協と忍耐で解決するしかありません」

 無論、問題意識を持つことは重要である。ただ、世の中は複雑でゼロか100ではなく中間もある。だからこそ、議論が必要なのだ。

 グレタさんが自らの信念に基づいて行動しているのだから、ぜひその議論を子どもの学びの場である学校で広げてほしい。願わくば大人の意見への敬意を払いながら。そうでなければ彼女の活動は徒らに子どもと大人を分断するだけのものになってしまいかねない。

週刊新潮 2019年10月10日号掲載

特集「『ノーベル平和賞』大本命! 世界が賞賛する16歳の活動家『グレタさん』への違和感」より

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