「曺国疑惑」の目くらましか 30年前の未解決大量殺人事件で突如、容疑者が特定

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血液型を間違えていた警察を尻目に、女性を殺し続けた真犯人

 警察は一帯に住むほぼ全ての男性を捜査対象とし、イ・チュンジェも3回取り調べを受けた。1987年5月の事件では有力容疑者に数えられたほか、1989年9月には強盗未遂事件を起こして翌年4月に執行猶予判決を受けたこともある。それでも容疑者特定に至らなかった理由は、警察が把握していた犯人の血液型及び足のサイズがいずれも間違っていたからだ。イ・チュンジェは自分が捕まらないことを知り、いっそう大胆に犯行を重ねたのではないかともいわれている。

 華城での連続殺人が止んで2年後の1993年、イ・チュンジェは結婚して韓国中東部の忠清北道清州市に転居した。だが翌1994年に妻が家出したことに腹を立て、その妹を性的暴行して殺害。ようやくこの事件で捕まったイ・チュンジェは無期懲役が確定し、釜山刑務所に収監された。

突然の警察発表はチョ・グク問題の目くらまし?

 チョ・グクは法相となって間もない9月26日、軍事政権下の冤罪事件について速やかな国家賠償を促す指示を下した。これは農民3人が1983年に北のスパイ容疑で死刑及び懲役15年の判決を受け、刑執行や自殺などで非業の死を遂げた事件だ。2017年6月には遺族が国を相手取った賠償請求訴訟で、3人を無罪とする判決が下っている。

 この事件で虚偽の自白を強要したとされる公安の捜査官が、イ・グナン。民主化を経た2000年、拷問などの違法行為で懲役7年の最高裁判決を受けた人物だ。イ・グナンは華城事件に際しても内務部(当時)に駆り出され、捜査に加わったといわれている。華城事件を巡って再燃する司法への不信には、こうした軍事政権時代の暗い記憶も絡まっているようだ。

 一方でチョ・グク問題を好機として文政権打倒に気勢を上げる保守派は、今回の発表に疑いの目を向けている。保守系最大手紙『朝鮮日報』は9月20日付の社説で「警察は1カ月も前に華城連続殺人犯のDNA分析結果を受け取っていた」とし、唐突な発表は「チョ・グク問題を新聞の1面から押し出すため」の目くらましではないかとの疑惑を示唆。また保守派の最大野党・自由韓国党のナ・ギョンウォン議員も同日、華城事件に絡めて「チョ・グク問題を覆い隠すための政策が急増され発表されているという合理的な疑いが生じる」と発言した。

 約30年の歳月を経て、再び韓国社会を大きく揺るがしている華城事件。チョ・グク問題を巡る新たな疑惑は、真相が解明される日が来るのだろうか。

高月靖(たかつき・やすし)
ノンフィクションライター。1965年生まれ。兵庫県出身。多摩美術大学グラフィック・デザイン科卒。韓国のメディア事情などを中心に精力的な取材活動を行っている。『キム・イル 大木金太郎伝説』『独島中毒』『徹底比較 日本vs韓国』『南極1号伝説』など著書多数。

週刊新潮WEB取材班編集

2019年10月9日掲載

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