阿部寛、冬の時代を支え続けた名伯楽 「結婚できない男」13年ぶりの続編に期待

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 俳優・阿部寛(55)が主演するフジテレビ系の連続ドラマ「まだ結婚できない男」(火曜午後9時)が10月8日からスタートする。2006年に放送された大ヒット作「結婚できない男」の続編だ。主人公・桑野信介は53歳になったが、まだ結婚できていなかった。続編では今度こそ独身生活に別れを告げるのか。また、ドラマは今回も成功を収められるのか?

 関西テレビが制作し、フジテレビ系で放送された13年前の「結婚できない男」の平均視聴率は16.9%(ビデオリサーチ調べ、関東地区、以下同)だった。今年の7月期(7~9月)のドラマでナンバーワンの平均視聴率は、「監察医 朝顔」(フジ系)の12.6%。なので、大ヒット作だったのは間違いない。

「結婚できない男」は殺人事件の謎解きがあったわけではないし、ドロドロの人間関係があったわけでもない。阿部寛が扮する独身建築家・桑野信介の日常を淡々と追っただけ。それなのに高視聴率を記録したのだから、阿部ら出演陣の演技が光り、尾崎将也氏(59)の脚本が魅力的だったのだろう。

 ドラマの続編は、新味を出そうとして中身を変えすぎると、失敗しがちだが、「まだ結婚できない男」の主演は阿部で脚本も尾崎氏だ。ただし、ヒロインは変わる。前作での桑野は、自分の担当医師・早坂夏美(夏川結衣、51)と紆余曲折の末に交際することになり、最終回では結婚を予感させたが、別れてしまった。

 桑野は絵に描いたような3高(高身長、高学歴、高収入)であるものの、偏屈で独善的。さらにプライドの高い皮肉屋であることから、愛想を尽かされたらしい。

 桑野と違い、ざっくばらんな性格で、やさしく、笑顔がまぶしかった夏美が、ドラマから去るのは残念だが、相手が桑野では仕方がないのかもしれない。なにしろ、前作での桑野は求められていない場で博識ぶりをひけらかしたり、自分と同レベルの知識を持たない人たちに厳しく接したり。空気がまるで読めなかった。これでは、いくら3高であろうが、女性にモテモテになるとは到底思えない。

 阿部は桑野役を再演することについて、「結構、言いたいことを言う役なので、ストレスがたまらない」と制作発表の場で語ったという。そう、桑野は思ったことをすべて口にしてしまうのである。だから対人関係において失敗を繰り返すのだ。

 阿部のドラマ出演は2018年版の「下町ロケット」(TBS)から丸1年ぶりだ。近年のドラマ、映画で阿部が演じるのは善玉役ばかりで、桑野のような三枚目役はやる機会がなかったから、再演は俳優として楽しみだったのだろう。

 阿部自身も前作の放送時点では独身だった。それが話題にもなった。もっとも、前作の放送終了から約1年3ヶ月後の2008年2月に結婚し、現在は2児の父親。顔つきが若いころより穏やかになったように見えるのは、そのせいか。

努力の人・阿部寛

 阿部人気は高い。ビデオリサーチが毎年2月と8月に行う「テレビタレントイメージ調査」の最新結果(2019年8月度調査)では男性俳優でトップだ。男性タレント全体ではサンドウィッチマン、マツコ・デラックス(46)、明石家さんま(64)に次ぎ4位。また、単にイメージが良いだけでなく、人格円満で思慮深い人物として知られている。偏屈な桑野とは違うのだ。

 阿部は努力の人でもある。俳優になる前、中央大在学中の1985年に「第3回ノンノ・ボーイフレンド大賞」に優勝。「メンズノンノ」などのモデルを務めるようになり、2年後の1987年には大ヒット漫画を南野陽子(52)の主演で実写映画化した「はいからさんが通る」で南野の相手役に抜擢された。これにより、一躍人気者になった。

 だが、苦労の始まりはここから。美形俳優が陥りがちな落とし穴が待っていた。大きな役に恵まれなくなったのだ。来る役の大半は、決まりきった二枚目役。抜群のルックスが役を狭めてしまった。俳優としては高い身長(189cm)もネックになった。また、演技力もまだ十分ではなかった。このため、2年ほど冬の時代を経験する。

 阿部を支え続けたのは、マネージャーを務めていた名伯楽・茂田遙子氏だ。現在は阿部と名取裕子(62)の所属事務所「茂田オフィス」の代表を務めている。芸能界には名マネージャー、名経営者と呼ばれる人が数え切れないほどいるが、茂田氏もその1人。

 NHKでは、茂田氏が阿部のために局へ通い続けた日々のことが語り草になっている。阿部の冬の時代、茂田氏はドラマのプロデューサーたちに「阿部に合った役はありませんでしょうか」と尋ね続けたという。来る日も来る日も。日本を代表する名プロデューサーだった故・近藤晋氏は「俳優を思う気持ちに胸を打たれた」と振り返ったことがある。

 茂田氏は近藤氏がプロデューサーを務めた故・高倉健主演のNHKドラマ「チロルの挽歌」(1992年)に阿部を出している。既に一定の知名度はあったのに、端役をやらせた。健さんの演技や仕事に臨む姿勢を、阿部に学ばせようとしたのである。

 それから19年後の2011年、阿部は日本テレビのスペシャルドラマ「幸せの黄色いハンカチ」に主演した。言わずと知れた、健さんが主演した1977年の名作映画のリメイクだ。この時点で、阿部は押しも押されもせぬ名優になっていた。茂田氏の熱意とそれに応えた阿部の努力が実った。

 さて、続編「まだ結婚できない男」のヒロインだが、まず吉田羊(年齢非公表)。桑野らしく、エゴサーチ(自分の名前のネット検索)を日課としていたところ、桑野を非難しているブログが、検索ランキングで上昇していることに気がつき、吉田扮する弁護士・吉山まどかに相談する。その場でも偏屈な発言を連発する桑野に、まどかは「敵をつくりやすい」と指摘する。桑野はやっぱり桑野なのだ。この出会いが恋へと発展するのか?

 もう1人は、離婚裁判中の人妻・岡野有希江で、稲森いずみ(47)が演じる。有希江の代理人弁護士が、まどかだった。桑野はどちらかと結ばれるのか、それともまたダメなのか。

 さらに、桑野が暮らすマンションの隣室に引っ越してきた戸波早紀とも関係が生じる。早紀には乃木坂46の元メンバー・深川麻衣(28)が扮する。桑野と戸波による年の差婚もないとは言えない。このご時世なのだから。深川は今年、テレビ東京の異色深夜ドラマ「日本ボロ宿紀行」(1~4月)に主演し、話題になった。

 旬の人も続編から出演陣に加わる。9月で終了した「あなたの番です」で、尾野幹葉を怪演し、ブレイクした奈緒(24)だ。桑野の建築事務所のアシスタント・横田詩織役を務める。おそらく「あなたの番です」とはまったく違った顔を見せてくれるのだろう。

 さて、阿部自身の前作と続編で一番の変化は、「結婚できた」ことと、子供を持ったことだろう。それが演技に表れるだろうのか?

高堀冬彦(ライター、エディター)
1990年、スポーツニッポン新聞社入社。芸能面などを取材・執筆(放送担当)。2010年退社。週刊誌契約記者を経て2016年、毎日新聞出版社入社。「サンデー毎日」記者、編集次長。2019年4月退社。独立

週刊新潮WEB取材班編集

2019年10月8日掲載

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