「反文在寅」数十万人デモに“普通の人”が参加 「米国に見捨てられる」恐怖が後押し
米国で浮上する「在韓米軍撤収論」
――韓国人も「見捨てられ」にようやく気づいた……。
鈴置: 翌9月26日の中央日報の社説「尋常でないワシントンの在韓米軍撤退論」(日本語版)は絶望感溢れるものでした。ポイントを引用します。
・在韓米軍撤収という主張が米ワシントン政界で強まっているという。大統領候補当時から在韓米軍の撤収を主張していたトランプ大統領だけでなく、米政官界の主流勢力内にも同調勢力が増えているということだ。
・韓米首脳会談で、双方は対北朝鮮政策に「変革(transform)」を起こすことで合意したという。「先に非核化、後に制裁緩和」という従来の立場から外れる可能性が出てきた。
・北朝鮮はかつて主張してきた「平和協定締結」がうまくいかないため「体制保証」要求に戦略を変えた。こうした論理に巻き込まれれば、北朝鮮の核の脅威はそのまま残る状況で在韓米軍の撤収につながるおそれがある。最悪のシナリオだ。
何度も申し上げますが、中央日報が「在韓米軍撤収」に警鐘を鳴らしたことが興味深いのです。保守の牙城である朝鮮日報は前から同盟の危機を訴えてきた。一方、ハンギョレなど左派系紙は、普通の人の不安をかき立てるそうした視点では書かない。
10月3日の文在寅退陣要求デモに数十万もの人が加わったのも、「タマネギ男」への怒りだけでは十分な説明がつきません。
中央日報が訴える「同盟消滅」への恐怖が普通の人に共有されたから、と見るべきです。実際、デモでは「米韓同盟死守」というシュプレヒコールも叫ばれました。
米国の「新提案」は米軍撤収か
10月5日、米国と北朝鮮はストックホルムで首脳会談の布石となる実務協議を開きました。国務省は記者発表で「米国代表団は(2018年6月の)シンガポールでの米朝首脳会談で約束した4項目合意を進めるためのいくつかの新たな提案を示した」と明かしました。
国務省の言う「新提案」とは北朝鮮の求める、安全を担保する米国側の措置――例えば、在韓米軍の撤収を意味すると見られています。
10月6日夕、北朝鮮外務省は「(北)朝鮮への敵視政策を完全かつ不可逆的に撤回するための措置をとるまでは、今回のような協議はしない」との声明を発表しました。これからも敵視政策の完全な撤回――在韓米軍撤収や米韓同盟廃棄が米朝協議の焦点になっていることが伺えます。
北朝鮮側は10月5日に「実務協議は決裂した」と発表していますが、交渉を優位に進めるためのブラフでしょう。今後、3回目の米朝首脳会談が開かれれば、「在韓米軍撤収」が可視化する可能性が高い。韓国人の「見捨てられ」への恐怖は増すばかりです。
「駐留なき安保」は不可能
見落としてならないのは「在韓米軍撤収」が「米韓同盟消滅」につながっていくことです。この同盟には自動介入条項がない。その代わりが在韓米軍の存在です。
北朝鮮が韓国の領土を軍事力で侵すと在韓米軍も危険に直面する。そこで米軍も反撃に加わる――という仕組みです。在韓米軍が存在しなくなれば、米軍参戦の「引き金」がなくなってしまうのです。
韓国にとって警戒すべきは北朝鮮だけではありません。在韓米軍がいなくなれば、韓国が実効支配する東シナ海の暗礁、離於島(イオド)に、いつ中国が侵攻するか分かりません。独島(竹島)にも日本が攻めてくる、とも多くの韓国人が信じています。
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