「反文在寅」数十万人デモに“普通の人”が参加 「米国に見捨てられる」恐怖が後押し

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 韓国で盛り上がった文在寅(ムン・ジェイン)退陣要求デモ。背景には「左派政権に任せておけば、米国から見捨てられる」との危機感の高まりがある。韓国観察者の鈴置高史氏が解説する。

「朴槿恵退陣デモ」以来の規模

――文在寅退陣を要求する大規模のデモが起きました。

鈴置: 韓国の保守団体が企画し、建国記念日で休日の10月3日に実施しました。2016年の朴槿恵(パク・クネ)退陣要求デモ以来の規模だった、と韓国各紙は驚きをもって伝えています。

 警察は参加人数を発表しませんでしたが、数十万人が参加したと見られます。光化門からソウル駅までは10―12車線の道路で2・1キロありますが、そこがデモの人波で埋め尽くされたからです。

 デモの引き金となったのはインサイダー取引や娘の裏口入学など数々の不正行為を疑われている曺国(チョ・グッ)氏です。調べれば調べるほど疑惑の案件が増え「タマネギ男」と呼ばれている。というのに、文在寅大統領が法務部長官に就任させたので、韓国社会では怒りが爆発しました。

 野党第1党の自由韓国党や在野団体など、保守勢力はこの機を逃しませんでした。「曺国逮捕」「文在寅退陣」をスローガンに掲げ、光化門広場での集会と、その後のデモを敢行したのです。

 韓国では保守・左派を問わず、「ここぞ」という時のデモは大型バスで地方から人を連れてくるのが普通です。バスの数から見て、今回のデモにも全国に動員令がかかったのは間違いありません。

「普通の人」も参加した反文在寅デモ

――保守は勝負に出たのですね。

鈴置: その通りです。朴槿恵弾劾で分裂した保守は、2017年の大統領選挙でも2018年の統一地方選でも、左派にやられっぱなし。このままいけば来年4月の総選挙でも負ける可能性が高い。

 ことに、与党の「共に民主党」が来年の選挙をにらみ、選挙制度の改変をもくろんでいます。左派の少数政党と中道政党を味方に付け、比例代表制の比重を一気に高める方針です。

 保守の自由韓国党の支持率は30%前後ですから、国会で過半の議席を得るのはまず、不可能になります。次回の総選挙を機に、左派は政権を盤石のものとする作戦です。

 左派の永久執権体制作りに当然、保守は危機感を強めています。朝鮮日報の楊相勲(ヤン・サンフン)主筆は選挙制度の改変を「暴挙」と糾弾する論説「曺国の次は選挙法で暴挙、『文在寅事態』が今始まる」(10月3日、韓国語版)を書いています。

――それにしても、文在寅退陣要求デモに数十万人も集まるとは……。

鈴置: 保守に加え、政治色の薄い普通の人も加わったからです。保守派だけなら数十万人も集まりません。中央日報の10月4日の社説「『検察改革を言い訳に曺国を擁護するな』が広場の声」(韓国語版)の一部を訳します。

・朴槿恵退陣を求めた2016年の「ろうそく集会」以降、最大規模の集会だった。家族単位の参加も目立ち、民心がどこにあるかを示した。
・3年前、広場を埋めた市民は特定の政治勢力の支持者だけではなかった。非正常的な国政運営に「これが国か」との切迫感からろうそくを掲げたのだ。昨日の市民たちの心情にもそんな切迫感が見られた。
・政府・与党はこの集会の意味を、保守政党の動員の結果に過ぎないと過小評価したがる。だ。だが、そうした態度では民心を見誤る。予想を超えた数の市民が街に出たのだ。特定の政党や団体の動員の結果だけと見るのは難しい。

中央日報の変節

――普通の人も反・文在寅デモに繰り出したのですね。

鈴置: そこがポイントです。それに加え、中央日報がこの社説で反・文在寅デモを「民意の現れ」と高く評したことも見逃せません。

 少し前まで同紙は保守系紙に分類されましたが、ここ数年は論調が「左」に傾き、今や「中道紙」と見なされています。その普通の人を読者層にする中央日報が、このデモを支持したのです。

――普通の人が文在寅政権から離れ始めたのですね。

鈴置: そう見て良いと思います。実は、中央日報の論調には少し前から変化が現れていました。「米韓同盟消滅」に向かって突き進む文在寅政権を危ぶみ始めていたのです。

 同紙はまず、8月27日に「日本ともNATOとも合同訓練をするというのに…トランプが韓国だけいじめる本心とは」(韓国語版)を載せました

「米国は世界中の同盟国との実戦的な合同訓練を強化しているのに、韓国とだけはやめてしまった。北朝鮮の核放棄の見返りとして、実戦的な合同訓練をやめたのだ」との指摘です。

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