18年ぶり新作長編『十二国記』の楽しみ方【後編・全10タイトル、どこから読むか?】

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日本の「女子高生」編も

 もうひとつの大きな軸が、現代日本の女子高生だった中嶋陽子をめぐる慶国のストーリー。陽子がわけもわからずとつぜん十二国に連れてこられてたいへんな目に遭うのが、シリーズ本編の開幕編(1)。陽子の物語は、3人の少女たちを主役とする波瀾万丈の傑作(4)につながり、この巻で《十二国記》は最初のクライマックスを迎えることになる。

 作中の時系列でもっとも古いのが(3)。戦国時代の日本で、滅亡に瀕した小松水軍を率いる小松尚隆は、延麒・六太に救われ、「国が欲しいか」と問われて「欲しい」と言い切り、雁国の王となって、おそろしく荒廃した国の再建に乗り出す。時代小説ファンなら、この巻から読み始めるのもありだろう。主要登場人物の流れを追うルートなら、(3)→(1)→(4)→(2)→(8)→(9)か。

 長編で唯一、胎果が登場しない番外編が(6)『図南の翼』。恭(きょう)国の大商家の娘・珠晶(しゅしょう)が12歳にして家出し、王となるために麒麟のいる蓬山へと向かう、明朗冒険活劇。時代設定は(3)の次に古く、話は他の巻から独立している。北上次郎氏はこの巻から《十二国記》に思いきりハマったそうなので、まず一冊読むなら、これを選ぶのも悪くない。

 短編で試したいという人には、市井の人々が主人公となる短編4編を集めた(5)がおすすめ。表題作は陶製の鳥をつくる陶工の話で、珍しく技術にスポットがあたる。死刑制度をテーマにした「落照の獄」、国土の荒廃を食い止めるため、絶望的な状況下にあっても最善をつくす人々を描く「青条の蘭」と「風信」もすばらしい。著者の実力と《十二国記》の魅力を思い知るには、短編ひとつでじゅうぶんだろう。

 とはいえ、どのみちぜんぶ読むことになるんだから、あれこれ考えずに(0)から順に読むのが正解かもしれない。手垢のついた言葉だが、いまから《十二国記》を初体験する人がうらやましい。一路順風(よいたびを)!

大森望(おおもりのぞみ)
翻訳家・書評家。1961年高知県生まれ。京都大学文学部卒。出版社勤務を経て、翻訳、評論活動に入る。主な著作に『現代SF1500冊 乱闘編』『同・回天編』『特盛! SF翻訳講座』『現代SF観光局』、『文学賞メッタ斬り!』シリーズ(共著)ほか。訳書も多数ある。

週刊新潮 2019年10月3日号掲載

特別読物「Amazonランキングトップ独占! ついに18年ぶり新作長編登場『十二国記』の楽しみ方」より

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