世界選手権で露呈、日本のお家芸「レスリング」が抱える東京五輪への不安

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 中央アジアはカザフスタンの広大な敷地に次々と巨大なビルが建設される宇宙都市のような新しい街、ヌルスルタン。不思議なことにほとんど年寄りを見かけない(犬も猫も)。円形の巨大なバリス・アリーナは本来、地元のアイスホッケーチームの本拠地。だが、報道陣は約50人と日本が圧倒的で、外国報道陣はすべて合わせても30人いるかいないか。見た人は「日本人はみんなレスリングをやっているのか」と思ってしまうだろう。9月14日から22日まで行われたレスリングの世界選手権を振り返る。

リオ金の土性沙羅がメダル届かず 皆川博恵が大健闘の銀

 なんといっても注目は女子57キロ級の川井梨紗子(24 ジャパンビバレッジ)だった。レジェンド伊調馨(35 ALSOK)とのプレーオフにまでもつれた激戦を制して出場資格を得た川井は見事に優勝。さらに妹の友香子(22 至学館大)も三位に入り念願の東京五輪の姉妹出場を果たした。姉の見事な世界選手権3連覇に、西口茂樹強化本部長も「川井梨紗子は伊調との戦いで成長した」と目を細めた。東京五輪を狙っていた伊調馨はこれで完全に五輪5連覇の野望を絶たれた。とはいえ、12月の全日本選手権に出る権利は持っている。五輪に出られずとも、川井梨紗子と再戦して勝利し「五輪に出ている川井梨紗子より私が強い」と示したいかもしれないが、現時点で態度を明かしていない。

 だが、障害がある。恋仲が噂される田南部力コーチがプレーオフで伊調が敗れた際、審判に暴言を吐いたことで資格停止処分を食っているのだ(不服申し立て中)。ある協会関係者は「田南部コーチは全日本の時点でも出場停止処分になって出られない。伊調選手は出ないのではないか」と見る。とはいえ、伊調馨がらみで川井梨紗子がニュースにされることは終わっていい。今や、川井梨沙子の時代なのだ。

 女子で大奮戦したのが76キロ級の皆川博恵選手(クリナップ 旧姓鈴木)だ。32歳の大ベテラン、準決勝はエストニアの選手を圧倒、決勝では米国のアデライン・グレイに敗れたが2対4と接戦を演じた。皆川は昨年まで2年連続銅メダル。これを上回る銀メダルは立派だった。皆川は「遅咲き」というより、人気者の実力者、浜口京子の壁に跳ね返されていたのだ。浜口の引退後はトップとして君臨した。だが、リオデジャネイロ五輪は、不運にも怪我で選考対象になる世界選手権に出場できず、涙を呑んだ。東京が初の五輪となる。「去年までと違って強豪を破ってなので嬉しい。やってきたことは間違っていなかったと思う」と静かに喜び、夫の支えに感謝した。

 ショックだったのはリオ五輪の金メダリストで68キロ級に登場した土性沙羅(24 東新住建)。肩の手術から復帰し、国内の接戦を制して今大会に臨んだが、準々決勝で米国選手にテクニカルフォールで大敗した。米国選手が決勝に進み、3位決定戦まで復活したが、ここでドイツ選手に完敗した。世界選手権とオリンピックで彼女がメダルを手にできなかったのは初めて。日本の応援席からは悲鳴が上がった。東京五輪の内定も得られなかった土性は「自分が弱かった。攻め切る勇気がなかった。肩の調子は悪くないし練習もできていた。12月の全日本選手権に気持ちを切り替えるしかない」と語った。悪びれず、試合直後にも記者たちの前で冷静に語った姿は立派だった。

 名門、至学館大学の主将で、前年チャンピオンだった53キロ級の向田真優(22)は、決勝で北朝鮮のパク・ヨンミに敗れて銀メダルだった。肩を決められたまま嘘のようにローリングで何度も転がされていた。五輪切符は掴んだが、いつもの切れはなかった。向田は「勝ったり負けたり。出てしまった結果は変えられない。東京五輪でなくてよかった。東京では今日の選手と合うかもしれないけど、負けないようにしたい」と話した。また、川井姉妹同様に姉妹で出場した入江姉妹。妹のななみ(24 福井県スポーツ協会)は非五輪階級の55キロで見事に銀メダルを得た。決勝は米国の強豪相手に3対5と健闘した。だが、五輪階級の50キロ級の国内予選でリオ五輪金の登坂絵莉(26 東新住建)を破っていた姉のゆき(27 自衛隊)が準々決勝でリオ銅メダルの実力者、中国の孫亜楠の豪快なバックドロップのような投げ技に遭う。必死に反撃するも12対13の僅差で屈した。このほか、古市雅子(22 日本大)が72キロ級で3位に食い込んだが結局、女子は昨年、4つの金を取ったのに比べても大きく後退した。

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