【特集:「建国70周年」の中国】(6)「一帯一路」を軍事面から支える大規模「アフリカ派兵」

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 中国の「一帯一路」構想は、ユーラシア大陸とインド洋を舞台に東西をつなぐ交通路を充実させ、経済活動の促進を目指す構想である。同構想の西端に位置するアフリカにおける中国の経済的プレゼンスの増大については、今更説明する必要もないだろう。

 本稿で注目したいのは、いまや日本でもよく知られているアフリカにおける中国の経済活動ではなく、アフリカにおける中国の軍事活動の実態についてである。

 軍事活動は一般市民の目に触れる機会こそ少ないものの、「一帯一路」構想を直接的・間接的に支えており、その活動は2種類に大別できる。

 1つはアフリカ北東部の「アフリカの角」を舞台とした人民解放軍の海賊対処活動と基地建設。もう1つは、一部の専門家を除いては日本ではほとんど知られていない、アフリカにおける国連平和維持活動(国連PKO)への人民解放軍の大規模な派遣である。

要衝「ジブチ」に基地を開設

 最初に海賊対処活動と基地建設について。

 アフリカにおける中国の近年の軍事活動について考える時、転機となったいくつかの出来事がある。その1つは2008年、「アフリカの角」に位置するソマリアの沖合における海賊の存在が問題化した時であった。

 人民解放軍は同年12月、ミサイル駆逐艦「海口」など3隻の軍艦と約800人の乗組員をソマリア沖アデン湾に派遣し、中国の船舶や「世界食糧計画(WFP)」の食糧輸送船の護衛に当たらせた。これは人民解放軍の史上初めての遠洋行動だったと言われており、中国がアジアの外に向けて海軍力を展開する転機となった。中国の海賊対処活動は現在も続いている。

 海軍が遠洋への航海に乗り出せば、艦船の補給拠点が必要になる。そこで中国政府が着目したのは、アデン湾に面したアフリカの小国ジブチだった。

 ジブチは約2万3000平方キロメートル(日本の四国の約1.3倍)、人口90万人程度の小国だが、紅海とアデン湾の双方に臨む海洋安全保障の地政学上の要衝に位置している。

 このため旧宗主国フランスは、1977年のジブチの独立後も基地を置いており、米国は「9・11テロ」を受けて2002年に基地を開設し、イエメンやソマリアでの対テロ作戦の拠点として利用している。これ以外にも日本の自衛隊、ドイツ軍、イタリア軍、スペイン軍が海賊対処活動のための基地・補給拠点を置いている。

 中国政府は2014年2月、中国軍艦が補給のために寄港できるようジブチ政府との間で協定を締結し、2016年2月には中国政府がジブチにおける基地建設計画の存在を公表した。狭い国土で中国軍基地との併存を強いられることになった米国は、軍事機密が中国に窃取されることへの警戒心を強め、ジブチ政府に中国基地の受け入れを再考するよう求めたとされるが、基地は2017年7月に開設した。港湾と滑走路から成り、中国の海空両軍の拠点となっている。

PKOへの人民解放軍派遣

 ジブチの基地が「一帯一路」を軍事面から支える存在であることは疑いようもない。とはいえ、広大なアフリカ大陸の片隅に基地を1つ建設しただけでは、中国が54の国がひしめくアフリカで強固な軍事的プレゼンスを築くことはできない。

 他方、米国はジブチの基地だけでなく、西アフリカのモーリタニア、ニジェール、チャドなどに基地を置き、対テロ作戦の一環として現地政府軍の訓練や無人偵察機の運用を続けている。フランスも旧植民地諸国に軍を駐留させ、時に米国と協力しながら一定の軍事プレゼンスを維持し続けている。

 そこで、中国は米仏とは全く異なる形でアフリカに軍を派遣し、アフリカの安全保障環境に対して、静かに、着実に影響力を増大させてきた。それが国連PKOへの人民解放軍の積極的な部隊派遣である。

 中国が国連PKOに初めて人員を派遣したのは1989年4月、南部アフリカのナミビアで独立前に展開された「国連ナミビア独立支援グループ(UNTAG)」への文民派遣であった。さらに翌1990年には、第1次中東戦争の停戦監視を目的に1948年に設置された世界最古の国連PKO「国連休戦監視機構(UNTSO)」に初の軍事要員を派遣した。

 その後、中国は1990年代を通じて国連PKOへの関与に消極的だったが、2000年代に入ると方針を転換し、2003年4月に「国連コンゴ民主共和国ミッション(MONUC)」(現在はMONUSCOに改称)に軍事要員218人を派遣したのを皮切りに、国連PKOへの関与を急速に深めていった。

常任理事国で断トツのPKO派遣

 現在、世界では14の国連PKOが展開しているが、そのうち半分の7つはアフリカで展開されている。さらに言えば、小規模な停戦監視ではなく、戦闘部隊を含む大規模な兵力が展開されているPKOは、マリ、南スーダン、コンゴ民主共和国、中央アフリカなど、すべてアフリカで展開されている。そこに中国がどのくらい深く関わっているだろうか。

 国連の統計を精査してみると、2019年8月末現在、中国は世界の8つのPKOに計2151人(男性2074人、女性77人)を派遣している。これは国連PKOに要員派遣している世界121カ国の中で11番目に多い要員数であり、国連安保理の常任理事国5カ国の中では断トツの多さだ。

 常任理事国の2位はフランスの741人、英国は571人、ロシアは71人、米国にいたっては35人に過ぎない。ちなみに南スーダンから陸自を撤収した日本は、南スーダンに司令部要員4人を残しているだけで、世界121カ国中110位の派遣人数だ。

 中国が派遣している要員2151人のうち、兵士は2072人と大半を占める。他の少数の要員は警察官などである。そして中国が要員派遣している世界の8つのPKOのうち5つはアフリカで展開されている。つまり、中国の人民解放軍はいまや、アフリカにおける大規模国連PKOの主力部隊の1つになっているのである。

「訓練の場」として利用されるアフリカ

 上智大学総合グローバル学部の渡辺紫乃教授は、1990年から2017年末までの安保理常任理事国5カ国の国連PKOへの要員派遣の状況を調査している。その結果によると、中国は2009年以降、5カ国の中で最大の要員派遣国であり、要員の約8割はアフリカに派遣されている。

 アフリカの危険な任務への派遣が増えたことにより、人民解放軍兵士の犠牲も増えており、2016年5月にはマリで展開中の「国連マリ多面的統合安定化ミッション(MINUSMA)」で1人が殺害され、同年7月には南スーダンで2人が殺害された。

 渡辺教授によると、これらを含め、PKOでの中国要員の犠牲は21人に達するという。

 周知の通り中国は2020年までに軍の機械化・情報化を進め、建国100年の2049年に向けて「世界一流の軍隊を建設すること」を目標としている。だが、人民解放軍は1979年のベトナムとの軍事衝突を別にすれば、1950年代初頭の朝鮮戦争以来、長きにわたって実戦経験がない。

 そうした中で、ジブチの基地を拠点とする海賊対処活動、国連PKOへの積極的な兵士の派遣は、中国の安全保障政策に大きな意味を持っていると考えられる。

 第1に、海賊対処もPKOもアフリカにおける中国の権益を直接的に防衛する性格の活動ではないが、逆に言えば、「アフリカと国際社会全体のための活動」という大義名分をまとった軍の派遣であるため、米欧諸国の反発を受けず、むしろ多大な「貢献」に感謝されながら人民解放軍を合法的に派遣できるのである。

 第2に、大勢の兵士を砂漠やジャングルといった過酷な環境下でのゲリラ戦に送り込むことで、兵士は実戦経験を積み、任務が終了すれば大きな誇りと自信が得られる。

 このように、中国はしたたかな手法で人民解放軍の海外展開を飛躍的に拡大しており、その活動を通じて軍が獲得した経験や知見は、「一帯一路」構想の下で拡大していく中国の権益を各国で保護する際に役立てられていくだろう。そのための「訓練」の場として利用されているのがアフリカ大陸なのである。

白戸圭一
立命館大学国際関係学部教授。1970年生れ。立命館大学大学院国際関係研究科修士課程修了。毎日新聞社の外信部、政治部、ヨハネスブルク支局、北米総局(ワシントン)などで勤務した後、三井物産戦略研究所を経て2018年4月より現職。著書に『ルポ 資源大陸アフリカ』(東洋経済新報社、日本ジャーナリスト会議賞受賞)、『日本人のためのアフリカ入門』(ちくま新書)、『ボコ・ハラム イスラーム国を超えた「史上最悪」のテロ組織』(新潮社)など。京都大学アフリカ地域研究資料センター特任教授、三井物産戦略研究所客員研究員を兼任。

Foresight 2019年10月1日掲載

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