“この世にブスな子なんていない”は綺麗事?「ルッキズム問題」にモヤモヤが消えない

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ルッキズム問題とフェミニズムの関連性

 数年前、とある女性ファッション誌の編集さんと仕事をするかどうか、相談をしたことがあった。

 新卒で入ったばかりの若い女性編集さんで、とにかくがむしゃらに働いているようだったが、ファッション誌なので少しでも流行遅れの服を着ていたりメイクがダサかったりすると上司から注意されるとのことだった。編集やライターの仕事なんて、頑張れば頑張るほど格好を気にする余裕がなくなり汚くなっていくのに(校了前は徹夜続きで風呂に入れないとか)服やメイクに気を遣わないといけないなんて、超過酷な編集部だと絶句したものだった。

 打ち合わせた仕事内容の中には、読者モデルを探す仕事も入っていた。彼女は街でキャッチをして読モを探しているとのことだったが、職場バレしたらまずい女性もいるので、これがなかなか大変なようだった。

 当時、私の周りにはちょっとしたフリーのタレント活動をしている女性も数人いたので、その子たちに声をかけてみようかと思い「顔の可愛さはどれくらいが基準ですか?」と聞いたら「雑誌に載せられる程度の顔面レベル」という答えが返ってきた。雑誌に載せられる程度の顔面レベル……。あまりにも抽象的で残酷な響きだった。

 結局その仕事は縁がなく、その編集さんともそれきりだ。今、ルッキズム問題でファッション誌界隈も言葉遣いに慎重になっているのかもしれない。
 
 自分の中で「あの子はブス」と思ってもいいけど口に出したりいじったりしてはいけない。そんな思いはあるものの、夜遅い混んだ電車の中でイチャついているカップルは必ずといっていいほどブスとブサイクのカップルで、イラッとしてしまうのは私の性格が悪いからであろう……。

 この世にブスな子なんていない。そんな綺麗事は私には言えない。もちろん、容姿に関して悩んでいる人がいるのは事実だ。でも、そんな人ほどそこまでブスじゃなかったりする。心の持ちようや気にしすぎという場合も多い。人の好みはそれぞれなので、一般的にはブスの部類に入る顔がストライクだという人だっている。

 なぜ今、ここまで見た目問題が注目されているのか考えると、フェミニズム運動が盛り上がっていることも要因の1つと考えられそうだ。「女性の人権を叫ぶ女なんて男に相手にされないブスだけ」と罵るミソジニストもいるが、女優のエマ・ワトソンを始め、一般的に美の頂点とも言われる元女子アナの小島慶子さんや、「#KuToo」運動発起人でグラドルの石川優実さんなど、美しい容姿の女性たちも声を上げている。

 ミソジニストが好む女性像はおとなしくて控えめで、それでいて容姿端麗で自分が支配できる女性だ。自分の意思を持つ女性は彼らにとってブスの対象となる。なんとも稚拙で呆れる話であるが、彼らは心の底では女性を恐れているのだろう。

 話がだいぶそれてしまったが、急にルッキズム問題が浮上してきたことに恐怖さえ感じる。確かに差別は良くない。しかし、世の中には美人の部類に入る人の方が少ない。だからこそ、女子アナやモデル、芸能人として活躍できる人がいる。

 そして何より、可愛くなる努力、綺麗になるための努力を私自身は楽しんでいる。新しいメイク用品をおろす際のワクワク感や、毎晩のスキンケアでプルプルの肌を触ること、毎朝乗る体重計(摂食障害があるのでこれはちょっと病的だが)の数字を維持できていること。この連載の女性の担当編集さんから「そのアイメイク、いつもと違っていいですね。可愛い」と褒められたことも嬉しかった。

 一歩間違うと女性の楽しみを奪ってしまうルッキズム問題。度を超えて、娯楽の1つが失われてしまわないか心配だ。

 バックナンバーはこちら https://www.dailyshincho.jp/spe/himeno/

姫野桂(ひめの けい)
宮崎県宮崎市出身。1987年生まれ。日本女子大学文学部日本文学科卒。大学時代は出版社でアルバイトをして編集業務を学ぶ。現在は週刊誌やWebで執筆中。専門は性、社会問題、生きづらさ。猫が好き過ぎて愛玩動物飼養管理士2級を取得。著書に『私たちは生きづらさを抱えている 発達障害じゃない人に伝えたい当事者の本音』(イースト・プレス)、『発達障害グレーゾーン』(扶桑社新書)。ツイッター:@himeno_kei

2019年9月27日掲載

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