「あ、男性でしたか。失礼しました^^;」現象はなぜ起こるのか

国内 社会

  • ブックマーク

「男の分際で」とは決して言われない社会

 引き続き、古いものだが痛快な記事を紹介しよう。

「16歳女子高生、南極点から「サンドイッチ」で反撃 ユーモアで差別に対抗、世界から賞賛」

 16歳の女子高生が「ポーラー・ハットトリック」(南極点、北極点、グリーンランド氷床の3カ所をスキーで踏破すること)という偉業を最年少で達成した。南極点で記念写真を撮影する彼女の手には、場違いなサンドイッチがある。写真とともに添えられた彼女の言葉はこうだ。

「ほら、あなたのためにサンドイッチを作りましたよ(ハム&チーズ入り)。37日間、600kmの距離をスキーで旅して南極点まで来られるんだったら、どうぞ召し上がってください」

 この投稿はさらに2年前、北極点に到達した彼女に投げつけられた「何人の男に手伝ってもらったの?」「俺のためにサンドイッチを作ってよ」という性差別的な嘲笑に対する反撃だった。彼女はそんじょそこらの大人にさえ到底真似できないような偉業を達成して差別主義者たちに堂々と立ち向かった。

「女はサンドイッチでも作ってろ」というのは、日本でいえば「女は家事でもしてろ」といったところだろう。「女の分際ででしゃばるな。おとなしくしていろ」というわけだ。

 果たして、これが男子高生であったなら、同じような性差別的な発言の的になっただろうか? あえて断言するが、そんなことには、なりえない。

 もし言われるとしたら、「男は……」えーと、なんだ? 「男なんだから…」…………。

 誰か思いつくだろうか? 思いつくなら、ぜひ教えていただきたい。

 男性を「男の分際で!」と貶める言葉は、存在しないのだ。

「どっちもどっち」論で矮小化される性差別問題

 女だって食べ残しやポイ捨てををするだろう。

 援助交際している女子高生も悪い。

 夜道が危険だと分かってて自衛しない女も悪い。

 女だって男のクセにと言うじゃないか。

 たしかに食べ残しやゴミのポイ捨てはいけないことだ。しかし実態にないことを一律女性のせいにされる筋合いはない。

 子どもが間違ったことをしているなら、それをやめさせるのが大人の役目だ。そして何より児童買春は法律により禁止されている。

 夜道だろうが電車だろうが被害者がどんな恰好をしていようが、他人に危害を加えた者が加害者であり悪である。

 男性は「男のクセに」と言われたりセクハラを受けることで就業先が限定されたり業務に支障が出たりすることが、女性に比べてどの程度あるだろうか。

「どっちも悪い」「どっちもどっち」論にして得をするのは誰だろう? 起きたことに対する社会の反応が男女でこうも違っているということを、冷静かつ誠実に議論できないのはなぜだろう? 議論されて困る者がいるのだ。

 こういった発言をするひとが、行為の是非が分からないというわけではないのだ。しかしニュースで知る事件や身近で起こる出来事に「女性」という要素が付随した時、社会によって刷り込まれてきた女性差別のスイッチがオンになる。

 だから、女性が被害者の強姦致傷事件という見紛うことなき暴力事件に対してさえ「女が犯人を誘った可能性がある」などという反応を、脊髄反射的にしてしまうのだ。これが男性が被害者の強盗致傷事件だった時、果たして同じような反応はどの程度あるだろう?

「ない」とは言わない。問題は、その割合と頻度なのだ。

 事件の第一報の時点で「レイプ事件? 女が誘ったんじゃないの?」と言われる割合と「傷害事件? 男が殴られるようなことしたんじゃないの?」と言われる割合および頻度は、明確に前者が多い。

 それが、女性の生きている社会の実情だ。

「強盗された? 男が金持ち丸出しの時計とスーツでフラフラ歩いてたんじゃねーの? 犯人とどっちもどっちだろ」

「食べ残しにゴミのポイ捨て? どうせ全部男がやってんだろ」

「南極点到達? どうせ女に助けてもらったんでしょ。そんなことより、おとなしく会社行ってペコペコ頭下げてろよ」

 果たして、こう言われることが常態化した時、男性はその言説を「その通りだな」と受け止めることができるのだろうか?

柊 佐和(ひいらぎ さわ)
フリーライター。フェミニスト。元セックスワーカー。1983年生まれ。高卒で入社したブラック体質の就職先を1年で退職しアルバイターになる。27歳から断続的にライターとして活動。セックスワークを経てフェミニズムと出会う。SNSを通して日本の女性差別とセックスワークの構造に対する批判を展開する。twitter @00_carbuncle_00

2019年9月26日掲載

前へ 1 2 3 次へ

[3/3ページ]

メールアドレス

利用規約を必ず確認の上、登録ボタンを押してください。