個人情報保護の大義名分が一人歩き…辞退率予測で「リクナビ」袋叩きへの違和感
“グレー”なエリア
加藤弁護士が言うところの「違和感」は、なにか問題が起きると、当事者やメディア、ネットがそれぞれの尻馬に乗って騒ぎ立てる。そんな現代の風潮にも通じるところがありそうだが、
「今回の件についてはデータを売ったリクルート側も買った企業側も、認識が甘かったのは明らかです」
と、企業の広報対応や危機管理コンサルティングを行う「エイレックス」の江良俊郎社長は見ている。
「一方で、そもそも人生を左右するような問題について、今回のような分析データの活用は嫌悪感を与えることがはっきりしました。この問題を最初に指摘した個人情報保護委員会の従来のガイドラインが不明確だったという点も大きい。今回、リクルートキャリアは悪意を持ってデータを販売していたとは思えず、企業側も明確な基準があれば守っていたはずです。そこまで言うなら、先にルールを出してくれ、と思っているのではないでしょうか」
江良社長の見方を、ITジャーナリストの井上トシユキ氏が引き継ぐ。
「ネット社会の仕組みを取り締まりたいのであれば、監督官庁をはっきりさせ、きちんとした罰則を設けて対応しないといけないと思います。“グレー”なエリアで金儲けができるのであれば、赤信号でも渡ってしまう企業が出ることは今後も十分考えられるのですから」
“取り締まり方”の問題というわけだ。しかし、
「リクルートは就職情報からはじまり、そこで得た登録者の住所氏名や大学、内定先などに基づいて、初任給が出る時期には自動車情報を、入社5年を過ぎて結婚適齢期がくると式場情報を、入社10年を超えてマイホームを検討するころには住宅情報を提供する。それだけ登録者のデータを重要視している企業だからこそ、データの販売は迂闊だったといえるかもしれません」
現代では、サービス提供を通じて得た情報を企業がプロファイリングするなど当たり前。そんなことは、「リクナビ」で同意していなかった約8千人も分かっているはずだ。
そもそもこの問題で、最初から本当に怒っていた学生がどれほどいるのか。「リクナビ」に登録している男子大学生(22)に訊ねると、
「別になんとも思っていなかったです。内定取り消しとか、なにか実害が生じた人が怒るのは分かりますが、そんな人いないですよね」
メディアやネットが煽り、被害感情を植えつけた面はなかったか。個人情報保護という美名のもとで目の色を変えて取り締まり、鬼の首を取ったようにそれを報じる。ここに、一番の違和感を覚えるのである。
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