個人情報保護の大義名分が一人歩き…辞退率予測で「リクナビ」袋叩きへの違和感

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 巷では、就活生の内定辞退率の予測データで商売した「リクナビ」が袋叩きにされている。厚労省の行政指導もあって“けしからん”の大合唱だが、そもそも、ここまで大騒ぎするような問題なのか。個人情報保護という大義が一人歩きしているだけではないのか。

 就活生の内定辞退率を予測していた「リクナビ」だが、いまの事態は予測すらできなかっただろう。

 問題のデータは、就活生のサイト閲覧履歴を人工知能(AI)で分析し、内定辞退率を算出したものである。これを「リクナビ」を運営するリクルートキャリアが企業に売りはじめたのが2018年から。おもに内定を辞退しそうな就活生を引き留めるといった目的に使われた。お値段は1年400万円から500万円也。38社が契約したという。

 だが、就活生への説明が不明瞭だとして、政府の個人情報保護委員会がリクルートキャリアに聞き取りを行った結果、今年7月末でデータ販売は休止となった。そして8月1日――。

〈就活生の「辞退予測」情報、説明なく提供〉

 日経新聞電子版がこう報じ、他紙やネットが飛びついた。紙面には〈個人情報保護、後回し〉の文字が躍り、ネットには「マジ最悪」といった声が溢れる。その後の経緯を、社会部デスクが振り返る。

「あまりに反応が大きかったこともあるのでしょう、リクナビはそのままデータ販売を廃止しました。対象となった就活生は約7万5千人いて、そのうちの8千人ほどから、データを第三者に提供する際に必要な同意を得られていなかったのです。個人情報保護委員会は8月下旬、リクルートキャリアに改善を求める勧告を出しました。個人情報保護法違反にあたると判断したのです」

 メディアが契約企業名を次々と暴くと、ネットの企業叩きも加速。触れるのが遅れたが、その動きと並び、厚労省も調査に着手していた。先のデスクは言う。

「厚労省も、今月6日に行政指導を行いました。こちらは個人情報保護委員会のケースと少し異なります。同意なしの約8千人だけでなく、同意を得ていた約6万7千人についても、職業安定法に触れるおそれがあるとの判断でした。つまり厚労省は、同意の有無にかかわらず違法の疑いに踏み込んだわけです」

 この追及は、次のような具合に大きく扱われた。

〈リクナビ行政指導 辞退率販売「職安法に違反」〉(9月6日付日経新聞夕刊)

〈就活生軽視 利益を優先/個人情報扱い 不信感〉(9月7日付毎日新聞朝刊)

 完全に、リクルートキャリアとデータ購入企業イコール“悪”という構図ができ上がったのである。行政指導の公表自体が異例であることも報じられ、“悪”に立ち向かう厚労省のヤル気が滲み出た。

「行政指導は、許可の取り消しや業務停止命令、改善命令などの行政処分とは次元が異なるもの。ここまで大きく報じる必要はないと思います」

 と、危機管理に詳しい加藤博太郎弁護士が指摘する。

「行政指導は単なる事実行為にすぎず法的強制力は持ちません。“気をつけましょう”というものです。たとえば税務署が税の申告内容を確認するのも行政指導の一種。法的に従う義務まではなく、行政指導を受けたからって、その会社がひどい悪事を働いていたことにはならないですよ」

 ただし、同意のない8千人の件は、“アウト”。

「それはまちがいありませんが、職安法の第51条には、業務に関して知り得た個人情報を“みだりに他人に知らせてはならない”とあります。登録者の同意を得ているのであれば、今回の情報の提供は、ただちには同法に違反しないとも考えられる。厚労省は内定辞退率予測のデータ販売を法的に止められない可能性があるからこそ、あえてメディアに問題を煽らせたのではないでしょうか。必ずしも悪事を働いたことにはならない会社を、一方的に叩く実情には違和感を覚えますね」

 同意していた6万7千人も“アウト”だと仄めかす厚労省の目論見こそ、危ういかもしれない。

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