上の子がアスペルガー? 下の子がカサンドラ? 止まらない負の連鎖

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他者の意図が分からなくて被害的に解釈

「お子さんも元ご主人も、こっちの気持ちを『◯◯で嫌だからやめて』と説明しても『(自分のしていることが)間違っているって言うのか!』ってなってしまうんですね。それで説明しても結局議論では勝てないことが起こると思います」

 とおっしゃるのは臨床心理士の滝口のぞみ先生だ。

「私や宮尾(益知)先生(どんぐり発達クリニック院長)が大人の発達障害とカサンドラにアドバンテージがあったなと思うのは、子どもをたくさん見ていたことです。

 子どもはまだ、やられたらやり返して良いと思っています。元ご主人が電車の中で足を踏まれたら踏み返すなんてエピソード、そこから彼がサイコかサイコじゃないかの判断はつかないけれど、子どもなら同様のエピソードはいくらでもあるんです。

 ASDの子が肩をポンポン叩かれたら、相手の意図が分からずその手を振り払うなど。

 ですから元ご主人のエピソードのひとつひとつは、ASDの子どもには見られるものです。

 他者の行動の意図が分からないと、状況要因であっても相手が意図したことと捉えて被害的に解釈してしまう。他の人が、自分に対してわざとやってるに違いない、って思ってしまうので、反撃する自分の行動には正当な理由がある。

 幼少期の発達特性の特徴を知らないと大人の発達障害はよくわからないかもしれない、ということは宮尾先生とはよく話します。ASDの子どもを見ていると、問題の夫たちに通じる理論展開を見ることができます」

 そこで、子どもに対しては「質的に良い解釈を入れてあげる」というアプローチをするのだという。

「相手から見たらという他者視点を含む状況の解釈を伝えていく。あとは前提を修正する。例えば鬼ごっこは勝つのが目的ではなく、勝ったり負けたりするものだ、と。だから『負けることにも意味がある』と」

 元夫に対しても同じという。

「話し合いというのは妥協点を見つけることなんですと言います。するとご主人たちは驚きます、話し合いは勝ち負けだと思ってるから。

 二人がお互い納得できるベストな妥協点を探すことが目的であると、先に話し合いを定義する必要があるんです」

 話し合いがどちらが正しいかの勝負だと思っている夫が、妻を彼の理屈で論駁しようとすることに対して、ひとつひとつ論破しようとしても勝てないのです。なぜならそれは「相手の作ったテストに答えるようなものだから、答えは相手しか知らず、必ず間違えます」と滝口先生。

 それよりまず、「話し合い」が何かを伝えなくてはならず、さらに世の中は勝ち負けではないということを理解してもらわなくてはいけない。

 両者にASD傾向が強ければ、子どもとその父親の問題点が似て見えるというのは当然なのである。ASD傾向の子どもとその父親の問題点が似て見えて当たり前なことが知られていない。

 夫からの被害があればあるほど、そうなってしまわないように過度に子どもを責めてしまう。

 カサンドラである母親は、そんな風に夫と子どもを重ねてしまう自分のことを余計に責めることになる。

「この子がこの人のようになったらどうしよう」

 強烈に心配なのに、そんな気持ちを抱く自分を許せないのだ。

〈次回につづく〉

星之林丹(ほしの・りんたん)
1982年、東京都生まれ。結婚を機に制作会社を退職してフリーランスに。6年で離婚、2児の母。

2019年9月23日掲載

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