人は耳から衰える… 「認知症」「うつ病」を引き起こす「加齢性難聴」対処法

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「聞こえの脳」に変える

 背景には、「補聴器がなくてもどうにかなる」「年寄りじみて見えるのが嫌だ」といった理由に加え、モノによっては両耳で100万円を超える価格も影響している。他方、思いのほか多いのは、「購入したものの合わないのでやめてしまった」ケースだという。

「本来は補聴器を購入してから定期的に耳鼻科に通い、聞こえの状態を確認しながら音量を上げていく必要があります。しかし、日本ではそうしたケアが万全ではない。欧米では8割近くが耳鼻科で検診を受けて補聴器を購入しますが、日本の場合は、半数以上が耳鼻科を介さず、デパートや通信販売で補聴器を入手している。これでは十分なサポートは望めません」(小川氏)

 新田氏が続ける。

「初診で来られる患者さんは、よく“補聴器は持っているけど、たいして聞こえるようにならない”と仰います。ただ、これは補聴器の音量設定が小さすぎるからなのです。加齢による難聴では耳の機能低下が進んで、脳が音の刺激の少ない状態に慣れている。そのせいで、必要な音量に設定すると多くの患者さんは“うるさい”と感じます」

 そうした苦情を避けるために、販売する業者はあらかじめ補聴器の音量設定を下げてしまうのだ。

 だが、これでは脳のトレーニングにはならない。

「私の病院では“難聴の脳”から“聞こえの脳”に変えるトレーニングとして3カ月間、お風呂と就寝の時間以外は常に補聴器をつけてもらいます。音量は目標の約7割からスタートしますが、それでも“うるさい”と感じる人が多い。しかし、1カ月も我慢すると日常会話を聞き取りやすくなる。2カ月経てば脳も慣れてきて、3カ月目には微調整する程度。患者さんの印象も見違えるように変わって“これから人生を取り戻します”と仰る方も少なくありません。たとえ90歳からでも“聞こえ”が良かった頃の脳に近づけることは可能です」(同)

 難聴は人に疎外感を抱かせ、孤独感を増幅させる。そこから抜け出すには、家族や専門家の声に耳を傾ける努力こそが必要なのだ。

週刊新潮 2019年9月19日号掲載

特集「人は耳から衰える! 『受難者1千万人』!! 気づかなければ『認知症』『うつ病』リスク増大の『加齢性難聴』」より

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