人は耳から衰える… 「認知症」「うつ病」を引き起こす「加齢性難聴」対処法
人は耳から衰える! 「認知症」「うつ病」リスク増大の「加齢性難聴」(2/2)
年齢を重ねることで聴力が衰える「加齢性難聴」患者は、1千万人以上と言われている。その影響は、単に耳のみにあらず。難聴は「認知症」も引き起こすとされ、英の医学誌「ランセット」が2017年に掲載した論文では、糖尿病や高血圧などを抑え、難聴を“最大”のリスク要因に挙げているのだ。対策はあるのだろうか。
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まずは「聞こえ」のメカニズムについておさらいしておきたい。
川越耳科学クリニックの坂田英明院長が解説する。
「空気の振動である“音”は、まず耳介で集められ、外耳道を通って鼓膜に届きます。鼓膜に伝わった振動はツチ骨、キヌタ骨、アブミ骨と呼ばれる三つの骨で増幅され、内耳にある“蝸牛(かぎゅう)”に至ります。リンパ液で満たされた蝸牛の内側には“有毛細胞”が毛のように生えていて、それがリンパ液と一緒に揺れて電気信号を発生させる。そして、電気信号が神経を伝って脳へと達し、音として認識されるわけです」
この有毛細胞が壊れて機能が低下したり、細胞数が減って起こるのが、加齢性難聴だ。ちなみに、壊れてしまった有毛細胞は二度と元には戻らない。
だからこそ、難聴には早めの対処が何より肝要。
坂田氏が対策として挙げるのはまず生活習慣の見直しだ。
「動脈硬化をはじめとする血管障害は難聴の原因となり得ます。というのも、内耳には細い血管が走っている。そのため、糖尿病や脂質異常症といった生活習慣病のせいで動脈硬化が進むと、血管から有毛細胞にエネルギーを運べなくなってしまうのです」(同)
内耳の血流が悪くなるという意味では、喫煙にも注意が必要。1日にタバコを21本以上吸う人は吸わない人に比べ、高音域で「1・7倍」も聴力低下リスクが増すと報告されている。
その上で、坂田氏が勧めるのは耳を鍛える二つの方法だ。ひとつ目は「井戸端会議」である。
「他愛ない話題で構わないので3~4人程度のグループで会話をしてもらう。全員の発言に耳を傾けて会話についていき、自分も発言して脳の機能を維持する。標準語よりも音に抑揚がある関西弁の方が効果的という説もあります」
もうひとつは「速聴トレーニング」なる方法で、
「録音した音声を2~3倍の速度で再生して聞き取るのです。素早く言葉を把握するには耳を研ぎ澄ませる必要があるので脳が活性化します。慣れてくると、普段の会話がゆっくりと聞こえ、言葉が明瞭に理解できるようになります」(同)
しかし、前述したように、ひと度、加齢性難聴になれば不可逆的で、現代の医学では聴力を取り戻すことは不可能。特効薬も存在しない。
そうしたなか、専門医は異口同音に「なるべく早く補聴器をつける」ことを勧めるのだ。
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