「耳」と「認知症」の意外な関係…加齢性難聴、気付かなければリスク増大!

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糖尿病よりも高リスク

 慶應義塾大学医学部・耳鼻咽喉科教授の小川郁医師によれば、

「日々の生活のなかでは、耳よりも目から得る情報の方が多いかもしれません。しかし、重要なのは耳が言語情報を感知する部位だということです。耳が収集するのは単なる音ですが、それが電気信号となって脳に届けられ、言葉として認識されると、“うれしい”“悲しい”といった情動が起こります。耳が司る音情報の処理はそれだけ脳を活発に動かす。つまり、耳と認知機能には強い関連があるのです」

「聞こえ」と認知機能の関係についての研究は2010年頃から急速に進んだ。

「私はそれ以前から難聴と老人性うつについて調査してきました。そのなかで、高齢者が難聴を放置すると、男性の場合で3倍、女性でも2倍、うつになりやすいという研究結果を得ました。同じ頃、アメリカの研究者は、難聴を放置することで脳の認知機能が実年齢より7歳も年上の状態になると報告しています」(同)

 様々な研究によって難聴と認知症の関連性が解き明かされてきたわけだが、決定打となったのが、イギリスの医学誌「ランセット」が2017年に掲載した論文だった。

 認知症治療に詳しい、くどうちあき脳神経外科クリニックの工藤千秋院長も、この論文には驚きを隠せなかったそうだ。

「論文では“本人が意図すれば改善できる認知症の危険因子”を九つ提示して、リスクを分析。糖尿病や高血圧、肥満などを差し置いて、中年期(45歳以上、65歳未満)以降の難聴を認知症にとって最も大きなリスク要因に挙げたのです。『ランセット』は世界で最も権威ある医学誌なので、さすがに衝撃を受けました。この結果を意外に感じた人も多かったと思います」

 難聴が「聞こえ」の問題に留まらず、認知症の引き金としてクローズアップされたことになる。

「誰だって年を取れば耳が遠くなるんだから仕方ない」とタカをくくっていた向きには、まさに寝耳に水の話であろう。

 こうした耳を塞ぎたくなるような事実を知れば、難聴が中高年にとって「難敵」であることはご理解頂けるはずだ。では、我々は難聴とどう対峙すべきなのか。

(2)へつづく

週刊新潮 2019年9月19日号掲載

特集「人は耳から衰える! 『受難者1千万人』!! 気づかなければ『認知症』『うつ病』リスク増大の『加齢性難聴』」より

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