池袋暴走事故、厳罰求める署名約39万筆 “署名の効果”を専門家に聞いた

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闇サイト殺人事件で集まった約32万の署名は…

 被害者の親族が署名を集めた事件としては、2007年に発生した「闇サイト殺人事件」がある。この事件は、面識のない男3人が「闇の職業安定所」というサイトを通じて知り合い、会社員の女性(当時31)を拉致したうえで殺害したというもの。被害女性の母親が当時、約32万の署名を集め、検察側がこれを証拠として法廷に提出した。

 結果は、2人に死刑、自首した1人に無期懲役の判決。名古屋地裁は2009年3月、「この種の犯罪は凶悪化・巧妙化しやすく、模倣される恐れも高い。社会の安全にとって重大な脅威というほかはなく、厳罰をもって臨む必要性が誠に高い」として、極刑を選択した。

 この時、名古屋地裁は検察側が提出した被害者遺族の署名を証拠採用しなかったが、結果として「殺した人数が1人の場合、死刑にはならないことが多い」という当時の常識を覆した形になった。

 ただ、32万人分の署名は証拠採用されていないから、量刑の判断には使われていないのだろう。しかし、署名の存在が社会の関心や恐怖を表したものとして、裁判官に届いていた可能性がることも否定できないのではないだろうか。

「裁判官も人間です。内面までは分かりませんが……。証拠として採用しなかったということは、少なくとも量刑判断には用いていないという建前になります。なお、『犯罪の社会的影響』については、最高裁判所が死刑選択の際の考慮要素として挙げるなど、これが量刑事情となることは一般的に是認されています。ただし、『犯罪の社会的影響』という曖昧なものの意味するところや考慮の在り方については、法の世界でも様々な議論がされているところです」(同・古橋弁護士)

 今回の暴走事故も、高齢者ドライバーや免許返納についての議論を促進させるなど、社会的影響は大きいといえる。「飯塚容疑者に対する厳罰を求める署名」が事故の風化防止に一役買ったことも事実だろう。

 署名を検察官や裁判所がどのように扱うのか、現時点ではわからない。しかし、約39万人もの署名を集めた遺族の想いが、飯塚容疑者の刑罰や量刑に影響を与える可能性はゼロではない。

森下なつ/ライター

週刊新潮WEB取材班編集

2019年9月21日掲載

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