「テレビで○○言った」記事の対処法(中川淳一郎)

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 昨今テレビ番組のコメンテーターが叩かれる機会が多いですね。理由は、テレビをネタにネットニュース化する輩が多過ぎるからです。とりあえず、テレビ番組を見て、その時の発言で過激なものが登場したら「いただき!」とばかりに記事をチャッチャッと作り、20分後にはそのコメンテーターの発言が「○○氏、韓国について『××』と発言!」といった記事でネットに登場し、ヤフーを含めたポータルサイトに掲載されてとんでもないPVを稼ぐわけです。

 これがSNSに拡散し、「けしからん!」と叩かれ、リンクが貼られたその記事(笑)にさらにアクセスが増え、そのメディアは儲かるのです。

 それこそ「張本勲氏、○○選手に『喝!』」や「『○○』出演の××氏、共演者の△△氏に『うるせーんだよ、お前!』」といった記事が日々量産され、多数のアクセスを稼ぎ、SNSでも拡散します。

 まさに「テレビを見るだけの仕事」です。これは様々なメディアが採用する手法ですが、そろそろウェブメディア(スポーツ新聞電子版も含む)に内容やコメントを安易に使われる番組及び出演者は「お前らさ、オレのコメントで儲けた分、オレと番組に30%ぐらいくれない?」という要求を出してもいいのではないでしょうか。

 近頃は「私達の番組及び出演者のコメントを使って記事を作る場合は、1回につき3万円いただきます」などと宣言してもいいくらいの状況になっています。「引用の範囲」を逸脱した記事が量産される状況にあり、それでいて記事を見た人からのクレームは局と出演者が一身に受けるという理不尽さよ。

「テレビで発信されたことも『社会』の一部である」という考え方は理解できます。だから過度な制約をするのではなく、「引用の主従関係を遵守してください」と局側はメディアに申し入れをすべきでしょう。

 もっというと、番組を作っている主体及び出演者の主導でニュースサイトを作り、ヤフーやLINEなどに配信を打診して、彼らには「ウチが元ネタです。ウチの記事を優先してください」という申し入れをすればいい。

 私はテレビ関係者の皆様の不躾さと「テレビこそ最強メディアなんだからお前らは協力しやがれこの野郎」的姿勢は大嫌いです。しかし、出演者をブッキングし、台本を作り、打ち合わせもしたうえで楽屋には飲み物や弁当まで用意するその姿勢に対しては一定の敬意を表します。

 さらに、我々のようなウェブメディア発の話題を使いたい場合は事前に問い合わせをする常識も評価しています。もしも「スポーツ紙を含むウェブメディアの皆さん、ガンガン私達の番組を使って記事を作ってください!」みたいな約束があるのであれば私の今回の主張は的外れですが……。

 そうでないなら、今、テレビ・ラジオ局がやるべきは前述のように「我々の番組内容が『主』となる記事を作る場合はカネ払え、オラ」ということです。しかしながらテレビ番組にしても、番組の尺を埋めるためにネットの話題を使いまくっているため、あまり強く言えない部分があるのかもね。

中川淳一郎(なかがわ・じゅんいちろう)
1973(昭和48)年東京都生まれ。ネットニュース編集者。博報堂で企業のPR業務に携わり、2001年に退社。雑誌のライター、「TVブロス」編集者等を経て現在に至る。著書に『ウェブはバカと暇人のもの』『ネットのバカ』『ウェブでメシを食うということ』等。

まんきつ
1975(昭和50)年埼玉県生まれ。日本大学藝術学部卒。ブログ「まんしゅうきつこのオリモノわんだーらんど」で注目を浴び、漫画家、イラストレーターとして活躍。著書に『アル中ワンダーランド』(扶桑社)『ハルモヤさん』(新潮社)など。

週刊新潮 2019年9月19日号掲載

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