韓国は元々中国の属国――米国で公然と語られ始めた米韓同盟の本質的な弱点
米国のアジア専門家が米韓同盟の存続を疑い始めた。反米の文在寅(ムン・ジェイン)政権に愛想を尽かしただけではない。そもそも韓国という国は同盟を結べる相手ではない、と見切ったのだ。韓国観察者の鈴置高史氏に聞いた。
「米国から切り離しやすい」韓国
鈴置: 米国で注目すべき変化が起きました。アジア専門家が韓国との同盟を続けるのは難しい、と言い出したのです。特に注目を集めたのがCSIS(戦略国際問題研究所)のグリーン(Michael Green)上級副所長の主張です。
米政府が運営する放送局、VOAの「中国が韓国の同盟離脱の可能性に注目」(9月5日、韓国語版、発言部分は英語と韓国語)から発言を引用します。
・Korea has a very different history and a very different geopolitical situation from Japan and the Chinese view Korea as a much more likely candidate for de-alignment from the U.S.
「韓国は日本とは全く異なる歴史を持ち、全く異なる地政学的な状況に置かれている。だから中国は韓国を、米国との同盟からもっとも切り離しやすい国と見なしている」――とグリーン上級副所長は語ったのです。
「中国の元属国」と同盟を組めるか
――「全く異なる歴史と地政学的な状況」とは?
鈴置: これだけだと、韓国に詳しくない人には何のことか分かりにくいですね。要は、「朝鮮半島の歴代王朝は中国の王朝の属国だった。故に、米韓同盟は極めて不安定だ」ということです。
この発言は米議会の米中経済安全保障調査委員会が9月4日に開いた米中関係聴聞会でのものです。同委員会のサイトがグリーン上級副所長の証言テキストを載せています。
テキストでは「日本とは異なり、韓国は中国の冊封体制に歴史的に組み込まれてきた。習近平政権以降、中国は韓国を米国との同盟から引き剥がすため、とてつもなく強力な圧力をかけ続けている」と、はっきりと「元属国」であると語っています。原文は以下です。
・Korea was historically more associated with the Chinese tributary state system than Japan and Beijing has put significant coercive pressure on South Korea to dealign from the United States since Xi Jinping came to power.
「それを言ったらお終いよ」といった手の議論です。証言の目的は、中国が米国とアジアの同盟国・協力国をアメとムチで引き裂こうとしていると解説することです。韓国に関する説明の冒頭で「韓国は中国の属国だった」とグリーン上級副所長は指摘したのです。
「もともと中国側の国だった」というのなら、米中の覇権争いが激化する今、米韓同盟を維持するのは極めて難しいということになる。
韓国の政権が反米か親米かにはさほど関係ない。また、米国がどんなに努力しようが、同盟はいずれ消滅するとの結論にならざるを得ないのです。
「最後は米国を選ぶ」はずだったのに
――『米韓同盟消滅』では指摘済みの話です。
鈴置: 米国のアジア専門家が米韓同盟の本質的な弱点を、ついに口にし始めたことがニュースなのです。
米国でも「米韓同盟が壊れかけている」との指摘は定番の議論になっています。ただ、米韓同盟がうまくいかないのは、左派の文在寅氏が政権をとったため、との見方が支配的でした。
前の左派政権、盧武鉉(ノ・ムヒョン)政権も反米を唱えながら、結局は米韓FTAを結び、イラクにも派兵するなど米国側に立ちました。
「この前例もあるから、今回も様子を見よう」との空気がワシントンにはあった。でも、それは甘い見方でした。米中対立の激化により「共通の敵を失った同盟」の危うさが急速に表面化したのです。
冷戦終結後、日米同盟も存在意義が問われましたが、中国を共通の敵と見なすことで同盟を堅持した。だが、韓国は絶対に中国を敵に回すつもりはない。ならば、米韓同盟の先行きが極めて暗いのは当然です。
米国のアジア専門家だって、韓国が中国に異様なほどに弱腰であることは分かっていた。ただ、韓国も民主主義国家である以上、最後の瞬間には中国ではなく米国を選ぶと考えてきた。
しかし、ここに至って専門家は「韓国が中国を選ぶ」と見なした。そこで「属国だったから」との説明付きで、米韓同盟の存続を疑う人が登場したのです。
「インド太平洋戦略」から逃げ回る
――なぜ今になって「韓国は中国を選ぶ」と見切ったのでしょうか。
鈴置: 米国や日本が主導する中国包囲網「自由で開かれたインド太平洋戦略」に韓国が参加を渋っているからです。
グリーン上級副所長も先に紹介したテキストで「韓国はこの戦略への参加に関し、1年間も言を左右にしてきた。例えば、東南アジアに駐在する韓国大使は、志を同じくする米日豪欧の大使館との集まりから逃げ回っている」と酷評しています。以下です。
・Seoul took over a year to participate in the Free and Open Indo-Pacific, for example, and South Korea ambassadors in Southeast Asia often steer clear of the like-minded coordination meetings of U.S, Japanese, Australian and European embassies.
日韓GSOMIA(軍事情報包括保護協定)を韓国が破棄したことも大きいと思います。破棄は北朝鮮への忖度からですが、中国の顔色を見てのものでもあります。
中国は韓国に対し「日米韓の軍事協力をするな」と言い渡し、文在寅政権も受け入れています(『米韓同盟消滅』第2章第2節「どうせ属国だったのだ……」参照)。文在寅政権は「日本との摩擦」を理由に、GSOMIIAを破棄して中国にゴマをすったのです。
「米軍は出て行かない」と信じていた比国民
――「匙を投げた」専門家はグリーン氏だけですか?
鈴置: 駐比・駐日大使や国務次官を務めた職業外交官のアマコスト(Michael Armacost)氏がやや異なる観点から、米韓同盟の存続可能性に疑義を呈しました。
スタンフォード大学のシン・ギウク教授が韓国の保守系紙、文化日報に「在韓米軍、フィリピンのように撤収するかも」(9月4日、韓国語)を寄稿しました。その中で同僚であるアマコスト氏の発言を紹介しています。発言部分を翻訳します。
・フィリピンの政府と国民は米軍が出て行かないと思いつつ「出て行け」と言ったが、我々は離れた。嫌いだと言う国を守る義務も必要も(米国には)ない。
アマコスト氏は韓国人の根深い反米感情を指摘し、米軍撤収の可能性を示唆したのです。もちろんこれは米韓同盟の解体の一里塚になります。
在比米軍がいなくなった瞬間、中国はフィリピンが実効支配していた環礁を奪いました。それと同様に、在韓米軍が撤収すれば中国が韓国に対する圧迫を強めるのは間違いない。今でさえ中国の言いなりなのですから、米韓同盟は事実上解体に向かうでしょう。
「韓国疲れ」は日本だけではありません。米国も子供のような言動を繰り返す韓国には疲れ果てています。韓国人は左派だけではなく保守も「米国は大陸に兵を置きたい。だから韓国が何を言っても、やっても在韓米軍は引かない」と信じているのです。
そんな、国ぐるみで勘違いしている韓国人に対し、シン・ギウク教授は「100年間、関係を維持してきたフィリピンからも米軍は引き揚げた。韓国でそれが起きないと断言できない」と警告しています。
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