「教育虐待」にのめり込んでしまう親と、その予備軍に捧げるアドバイス

国内 社会

  • ブックマーク

あなたも加害者と紙一重という「教育虐待」――おおたとしまさ(2/2)

 愛知県名古屋市で当時小学6年生だった佐竹崚太(りょうた)君が、父の佐竹憲吾被告(51)によって刺殺された事件。今年6月から開かれた公判では、教育熱心な父が子を殺害するまでの経緯が検証された。行きすぎたしつけや指導による「教育虐待」の実像に迫る。

 ***

 拙著『ルポ教育虐待』に登場するケースでは、中学受験をしなくても、小学生のころから過度に勉強をさせられるケースもあった。高校受験での教育虐待のケースもあった。勉強だけでなく、ピアノの練習で殴られるケースも複数あった。

 ましてや、スポーツや音楽の分野におけるトップレベルの指導の厳しさは一般の受験勉強の比ではない。

 かつて私が取材した小学生のスイマーは、毎朝4時30分に起床して登校前に練習し、放課後も17時から20時まで練習。夕食は毎日母親が送迎する車の中だった。あくまでも本人の意志だというのだが……。全国レベルで活躍する中学生ゴルファーの母親は、「試合の結果が悪いと人目をはばからず暴力を振るう親もいる」と証言した。

 あるヴァイオリンの指導者は、「のめり込んでしまう親御さんのなかには、小学校低学年で無理やり1日7時間も8時間も練習をさせてしまうひともいます。それでは子どもの精神がおかしくなってしまいます」と訴える。これも広い意味での教育虐待といって差し支えないだろう。

「子どもに多少無理をさせてでも、良い学校に合格できたのなら結果オーライ」という考え方もあるかもしれない。しかしそうは問屋が卸さない。教育虐待で受けた心の傷はなかなか癒えないのだ。

 関西で生まれ育った凜さん(仮名)は、母親からの長期間におよぶ凄絶な教育虐待の末、一度は親元を離れたもののうつ病を発症し、実家に戻り、27歳にして自殺してしまった。

 葬儀で母親は、わが子の自殺を会社や社会のせいにする言葉を述べた。そのときだった。被害者の弟が母親の言葉をさえぎるように立ち上がり、「そんなことくらいでお姉ちゃんが死んだと、本当に思っているのか!」と怒鳴りつけた。

 弟も長年母親からの教育虐待を受けており、母親の顔色ばかりうかがうおどおどした子どもだった。その件以降、弟は実家と縁を切り、出ていった。いまはどこで何をしているのか誰も知らない。その後、母親自身がうつ病を発症した。このようなケースはおそらく氷山の一角だ。

 人間関係が上手くいかない、生きている実感がわかない、怒りがコントロールできない……。そんな満たされない感覚が常にあるのだとしたら、もしかしたらあなたも、教育虐待の被害者であり、加害者なのかもしれない。

次ページ:癒えないトラウマ

前へ 1 2 3 次へ

[1/3ページ]

メールアドレス

利用規約を必ず確認の上、登録ボタンを押してください。