女子大生の人生は壊されかけた! 誤認逮捕で分かった「警察・検察」の呆れた劣化
“逃亡”した県警本部長
前述した通り、彼女は2日後の10日朝に釈放された。その後も警察は捜査を続け、彼女と同じアパートに住む女に事情聴取したところ、「ドライブレコーダーに写っているのは自分」と供述。セカンドバッグを持ち去ったことも認め、7月18日に誤認逮捕が確定したのだった。
8月1日に弁護士を通じて公表した手記の中で、女子大生はこう吐露している。
〈5月27日から(誤認逮捕確定の連絡を受けた)7月19日という期間は私にとってはとても長く、不安、恐怖、怒り、屈辱といった感情が常に襲い、ぴったりと当てはまる言葉が見つからないほど耐え難いものでした。手錠をかけられたときのショックは忘れたいのに忘れることができず、今でもつらいです〉
さらに、
〈自白を強要するかのような言葉を執拗に言われました〉
彼女の取り調べを担当した30代の巡査部長が言い放ったセリフの数々は、冒頭で紹介した。
「最初の任意聴取の2日後、彼女は一人で私のところに相談に来て、困惑した様子で“身に覚えがない”と繰り返していました」
女子大生の担当弁護士はそう語る。
「2回目の任意聴取の後、1カ月ほど警察から連絡はありませんでした。ですから、彼女は容疑が晴れたと思っていたはずですし、僕もそう思っていました。そんな矢先の、7月8日の逮捕だったのです。逮捕直後に接見した際には、さすがにショックを受けていることが伝わってきました」
怒りの感情が湧いてきたのは誤認逮捕が判明した後のことだったといい、
「彼女は“こちらの言い分を一切聞いてもらえないことが苦痛だった”と憤っています。また、警察が発表している内容は十分ではない、との思いがあり、手記を公表したのです」(同)
女子大生が手記を公表した5日後の8月6日、
「全く無関係な方を逮捕し、心よりおわび申し上げる」
と、県議会の場で謝罪した愛媛県警の松下整(ひとし)本部長。
その後のある朝、松山市内の公舎から出てきた松下本部長に話を聞くべく声をかけたところ、こちらを見ることなく、速足で“逃亡”。質問を無視して歩き続けること1分半、ようやく立ち止まってこちらの存在を認めてくれた。そして、
「私はこれまで何度も言っているように、誠に申し訳ない事態で深く反省している、と。私の心情としてはそれを書いてもらえれば大丈夫です」
と、話す一方、
「十分答えたろ。これぐらいでいいんじゃない?」
との捨て台詞も。休日にもかかわらず、よほど先を急いでいたようだ。
「今回の件は誤認逮捕というより“でっち上げ”と表現したほうがいいほどひどい。8月9日には香川県警の警部補が刑事事件で容疑者になった息子に不利になる証拠を隠した、という不祥事が報じられましたが、最近、悪質な警察官が増えている気がします」
とは、ジャーナリストの大谷昭宏氏。
「また、司法試験の合格者数の増加と共に検事の質も劣化している。合格者のうち優秀な人材は外資企業の顧問弁護士などを目指す。転勤があって仕事がきつい検事を選ぶ人が何人いるのでしょうか」
7月29日、東京・千代田区の最高裁で「法曹という仕事」と題するイベントが開催された。現役の弁護士、検察官、裁判官が一堂に会して仕事の魅力などを紹介するもので、検察官は「被害者の“ありがとう”が聞ける」、裁判官は「前例のない問題を自らの考えで判断出来る」と語っていた。しかし、判断を誤れば、人一人の人生を一瞬にして台無しにしてしまいかねない。これから法曹界の門をくぐる人が知っておくべきは、そうした「怖さ」のほうではあるまいか。
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