深海魚の胃袋からプラスチックごみ……「海の手配師」が語る、海洋汚染の現実

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過酷な環境に身を置く生き残り戦術

――深海魚というとリュウグウノツカイなどが有名ですが、石垣さんが特に好きな深海生物ってなんですか?

石垣:コウモリダコですね。13センチくらいの小さな生き物で、タコって名前だけどタコじゃない。学名は「地獄のバンパイヤ・イカ」だけど、イカでもない。2億年前くらいに出現したタコとイカが分かれる前の生き物です。

 コウモリダコは脚の他に長い触糸を持ってて、それで深海に降るマリンスノー(編集注:プランクトンの排出物、死骸、またはそれらが分解されたもの、もしくは物理的に作られた粒子。海中の様子を撮影した映像、写真等で雪のように見える白い粒子)を集めて食べて生きてる。とっても粗食なんですね。名前に反して狩りをするわけでもない。敵に遭遇したら、脚の間にあるスカート状の膜をめくってトゲを見せつけて威嚇するんですけど、そのトゲもブヨブヨしてるから攻撃にならない。

 そんな彼らが、過酷な深海で生きていけるわけがないんですよ。捕食者の格好の餌でしょう? それなのに2億年も生き延びてる。なんでだろうって調べたら、彼らの棲む深さ700~千メートルの海域って、一番酸素が薄いんですよ。わざわざ過酷な環境を選んで、そこで生きてる。

――人間だったら、わざわざヒマラヤの頂上に住むような……。

石垣:そうそう。天敵が来られないような過酷な環境に身を置くっていうのが、彼らの生き残り戦術だった。

 深海700メートルくらいから下って地上の影響を受けにくいし、環境が変化しないんですね。だから恐竜が滅びるような気候の大変動があっても関係なく、コウモリダコは生き延びることができた。

 発生から2億年経った今も変わらず、真っ暗な深海で、誰にも見えないのに膜の下のトゲを見せたり、マリンスノーをペソペソ食べるだけの暮らしを続けてる。健気ですよね。素敵すぎる。

――どんどん進化してきた人間とは、まったく逆ですね。

石垣:本当にそう。別の仕事で「強い生き物ランキング」っていうのにコメントしましたけど、結局は何億年も変わることなく生き延びてる生物が強いんじゃないかなって、ぼくは思いますね。

 オウムガイなんかも、アンモナイトと違って滅びてない。アンモナイトはより浅い水域で体を大きくして競争に打ち勝とうとしたけど、オウムガイは体を大きくする必要もなかった。深海にいたから。

――暮らしやすい環境で競争を選ぶか、競争を避けて過酷な環境に暮らすかっていう……。

石垣:そうそう。言ってみれば、ブルーオーシャンとレッドオーシャンです。

 オウムガイは過酷な環境を戦略的に選択したってことですよね。何か特別な能力があるわけでもない。それこそ今のイカやタコは頭が良くて器用(筆者注:餌を入れた瓶のフタを開けたりする)だけど、オウムガイにいたっては殻に入ってボーっとしてるだけ。吸盤もなければ墨も吐かない。ただ、外敵の少ない環境を選んだっていう戦略があった。

――そうやって聞くと、なんだか羨ましいような気もしますね。

石垣:(笑)何が良いか悪いか分かりませんけどね。でもいろんな生き物との比較があってこその面白さですよね。深海生物も単体で見るより、近種や同種の生物と比べると、よりその面白さが分かる。

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